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うつるんです⑥

6月13日 晴れ 今日は、泳ぎの再テストであり、ランチ当番の日です。 ランチ当番でプールテストとか、嫌な記憶が蘇る。 今日は絶対に絶対にぜーったいに、しないから!破廉恥極まりないことは、絶対絶対しないから! そうじゃなくたって、この前皇が渡った日、何か、色々と悶々としてたからか、結構激しく……その……あああああ!もう!オレ本当にヤバイ!何か……ヤバイ。どんどんオレ、おかしくなってる気がする! いや!再テストは絶対に合格しないと!だって不合格だと、B組になるって噂を聞いたし。本当かどうかはわからないけど……。 不合格は絶対にイヤだけど、もしお昼ごはんを食べてて、万が一皇に迫られたら……止められる、気がしない。 でも止められなかったら、合格がヤバイ! そうだ!お昼、ふっきーを誘って……いや、ふっきーは忙しいから駄目だ! じゃあ、梅ちゃんは?!さすがに梅ちゃんがいる前で、いやらしいことは出来ないだろう!よし!梅ちゃんをランチに誘うぞ! と、思って梅ちゃんのところに行くと、運動部総括のなんやかやがあって、昼休みまで忙しいと断られてしまった。梅ちゃーん! どうしようと思っているうちに昼休みになり、皇はまた当たり前のようにオレのロッカーを開けてお弁当を取ると、オレの手首を掴んで廊下に連れ出した。 「皇!」 これはハッキリ言わねばヤバい! 「あ?」 「今日は、零号温室じゃないとこで……」 皇にヤル気があるかどうかもわからないのに『今日はしないで』なんて、そんなこと言えるはずがない。 たいがい涼しい顔をしてる皇は、涼しい顔のまま、急にそんなことになったりするので、予想がつかない。 今だって、この顔だけで判断したら、絶対そんなことしそうにないけど! ……いや!こいつ、本当に顔だけじゃわかんないから! そんなことを言わないで、破廉恥なことをされるのを回避するには、零号温室に行かなきゃいいんじゃないの?!と、即座に閃いた自分を褒めてやりたい! 中庭とかなら、そんなことしようがないもんね!オレ、天才! 「……そうか」 あっさり了承した皇は、オレの手を引いて、生徒会室直通エレベーターに乗った。 「ちょおおお!だから!温室じゃないとこで……」 「温室ではない」 「へ?」 皇は、生徒会室のある五階のボタンを押した。 五階で降りて、生徒会室棟の廊下をどんどん奥に進んで行く。 「え?ここ、知ってるの?」 皇が入ったのは、一番奥にある、何に使うのかわからない普通の部屋だ。 前にここでふっきーに泣きついた記憶が蘇って、ちょっと恥ずかしくなった。 「ここは鎧鏡家専用の部屋だ」 皇はそう言って、ポケットから黒いキーケースを取り出した。 「ここの鍵だ」 「えっ?!ここ鍵ついてたの?だって普通に入れたよ?」 「ここの鍵は、内側からのみ掛けられる」 え?何それ?意味わかんない。内側からだけ鍵が掛けられるって、用途がわかんないよ!用途が! でも待って!これじゃ温室を避けた意味ないじゃん! 鍵のかかる場所じゃ、皇に……迫られる可能性がある! っていうか、なんならこの部屋じゃ、あの温室より、やります的雰囲気満載じゃん! いかん!もうこうなったら、皇がどう思ってるかとか、関係ない!合格をもぎ取るために、はっきり言っておかなきゃ! 「皇!」 「ん?」 「今日、再テストじゃん!プールの!」 「あ?ああ」 「絶対!合格したいんだよ!オレは!お前だってオレが合格しないと駄目だろ?」 「ああ。合格するであろう?どの泳法も、全て余が完璧に仕上げてやったではないか」 「うん。そう。そうなんだけど!それは感謝してるんだけど……っていうか!この前のテストだって、お前に……テスト前にあんなことされなきゃ……合格してたんだよ!」 「あ?」 「だから、今日は……」 しないでよ?と言うのを躊躇うと、皇がふっと鼻で笑った。 あ、これは、オレが言いたいことがわかったって笑いだ。 「それで温室に行かぬと申したか」 「べっ!別に、温室イコールそういうことをする、とか……思ってるわけじゃないけどっ!」 いや、思ってるから、違う場所でって言ったんだけど。 「そなたの追試の邪魔はせぬ。ゆるりと食せ」 「……ん」 皇がゴロリとベッドに横になった。 「え?ご飯は?」 「ん?ああ」 ベッドから起き上がって座った皇は、どこか気怠そうに見えた。 「……大丈夫?」 「あ?何がだ?」 そう言った皇が、お弁当を食べ始めた。 今は前程忙しくないって言ってたけど、寝不足、なのかな? 今もオレは、皇が普段、どんな風に過ごしているのかよく知らない。 それから、二人で色んな話をしながらお弁当を食べた。 そういえば、いやらしいことをされないランチ当番って、初めてなんじゃないの? ふっきーの、なんちゃらオリンピックのこととか、この前あった雨乞い祭りのこととか、来週は塩紅くんの誕生日だとか、もうすぐ期末テストになっちゃうとか、藍田がバイトをしているとか、そんな普通の話をした。 夏休みの話になった時、またモナコに行くんだよね?と聞くと『そなたの誕生日には必ず戻って参る』と、キスされた。 『今年のケーキには、割れぬプレートを付けてやろう』と笑うから、『今年は食べるつもりだったのに』と言うと、『ではチョコレートのプレートにしてやる。食えるものなら食うが良い』と、笑われた。 「食べるよ!」 「今年は何と刻んでくれようか」 皇がまたふっと笑った。 今年はプレートまで食べる!なんて言ったけど、プレートに皇からのメッセージが書いてあるならオレ、今年もやっぱり、食べられないかも。

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