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うつるんデス⑩
「そういうの、あんたがどうこう言うことじゃなくない?」
黙りこくったオレの隣で、藍田がそう口を挟んだ。
「え?衣織くんってばっつんが好きなんだよね?」
「好きだけど?」
また、こいつはぬけぬけと……。
「だったら、ばっつんの誕生日に、ちーくんがいないほうが都合がいいじゃん。ちーくんがいない間に、ばっつんのお祝いに行ったら?」
「は?」
塩紅くん、オレと藍田をくっつけようとしてるの?!
「ばっつん!衣織くんはあの藍田家のご子息様なんだし、こんなにばっつんが好きなんだよ?衣織くんでいいじゃん!そうなったら、みんなが幸せだと思わない?」
みんなが、幸せ?
……オレは?
「……」
オレが黙り込むと、ふっきーが『鎧鏡家の奥方候補は、すめが決定を下す日まで、一人も欠けたらいけないと思うよ?それを崩そうとするなんて、鎧鏡家への忠義心を疑うよ』と、オレの背中をポンっと撫でて、塩紅くんを見た。
ふっきー!
「は?仲良しごっこなんかしてたら、ちーくんは手に入らないじゃん。ふっきーは一番人気なんだっけ?余裕のある人は、言うことが違うね」
「ガツガツすんのはわかるけど、あんたのやり方、汚ったないね」
藍田は呆れ顔で、塩紅くんを見ていた。
「俺は衣織くんを応援するって言ってんのに、何それ?鎧鏡家の奥方候補に横槍入れようとしてる衣織くんに、汚いとか言われるなんてびっくりだよ」
「はあ?」
顔をしかめた藍田を無視して、塩紅くんはご飯を一口食べると、また口を開いた。
「ふっきーは、みんな仲良くするのが忠義の証だと思ってるんだ?でも俺はそうは思わない。誰を出し抜いてでも、まずは若様に選ばれなきゃ何の意味もないじゃん」
忠義とか、オレは全然考えてないけど、皇に選んで貰えなきゃ何の意味もないっていうのは……オレも、そう思う。
誰が悲しんだとしても、皇の側にいたいって、思ってる。
塩紅くんの言い方は嫌な感じがするけど、オレも口には出さないだけで、頭の中で考えてることは同じなんだ。
「浅いね」
ふっきーがぼそりと呟いた言葉は、塩紅くんの大きなため息で、オレにしか聞こえなかったかもしれない。
「ふっきーだって出来る人なんだから、みんな仲良くなんて言ってないで、もっと前に出たらいいのに。ふっきーを応援するわけじゃないけど、少なくとも俺は、下手な小細工でちーくんに存在アピールして、目をかけられてるような奴より、ふっきーのほうが鎧鏡家の奥方様に相応しいと思うけど?」
下手な小細工で存在アピール?誰のこと?
あ!天戸井の、お守り事件のことかな?お守り落としたの、わざとだったと思ってるの?
塩紅くんって、天戸井のこと嫌ってるもんなぁ。
「下手な小細工しようとしてんの、あんたじゃないの?」
藍田!もう、これ以上揉めるようなこと言わないで!
「かもね」
今度は塩紅くんが、気のない返事をした。
「あれ?藍田くん、お昼ご飯それだけ?」
「あ、うん」
最近、なんちゃらオリンピックの準備で、一緒にお昼ご飯を食べていなかったふっきーが、藍田のお昼ご飯にツッコミを入れて、そこから藍田のバイトの話になり、ふっきーと藍田が盛り上がる中、塩紅くんは何も話さずお弁当を食べ終えると『衣織くん、手を組む気になったらいつでも言ってよ』と、にっこり笑って、一人で部屋から出て行ってしまった。
「あれ、ホントにすーちゃんの嫁候補?」
顔をしかめた藍田を見て、ふっきーは眉を下げて曖昧に笑った。
「雨花」
「ん?」
「雨花の誕生日……すーちゃん、絶対帰って来ると思う」
「え?」
「それをわざわざ……止める必要ないよ」
藍田……オレのこと応援してくれるの?!と、喜んだのも束の間『何、喜んでんの?雨花を諦めたわけじゃないから』と、藍田が口を尖らせた。
それを聞いたふっきーが『藍田くん、男気あるね。そんな可愛いのに』と、笑った。
「可愛いは余計だよ。あのさ、僕は雨花が本当に好きだし、欲しいと思ってる。でも……すーちゃんがいない間にかっさらうとか、そんなの絶対したくない」
「え……」
「無理矢理自分のものにしたいんじゃないんだ。雨花に選んで欲しいんだよ。……すーちゃんが目の前にいても、僕を」
う……。
真剣な藍田と目が合って、何の返事も出来ない。
ふっきーが、固まるオレの前にスッと立った。
「キミの男気には感服するけど、僕は鎧鏡一門の人間として、雨花ちゃんをキミには渡さないよ」
ふっきー!
藍田は『詠は僕の側近に欲しいな』と、笑った。
はぁ?!
そのあと『今日は詠の顔を立ててあげる』と、笑いながら部屋を出て行った。
「……雨花ちゃん」
ふっきーが真面目な顔でこちらに振り向いた。
「え?」
「もうこのメンバーでランチするのは、やめておこうね」
同感!
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