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うつるんデス⑪
6月18日 曇り
今日も、皇が学校を休みました。
皇が学校を休んでもう三日目だ。
母様に心配いらないって言われていたし、とりあえず皇の分のノートをとっただけで、昨日は何もせずにいたけど……お見舞いとか、行ったら駄目、かなぁ。
本丸にはそうそう行ったらいけないって、言われてるけど……。
今日の休み時間にうちの教室に来た塩紅くんが『ちーくんのお見舞いに行く!』って言うから、『本丸には行ったら駄目なんじゃないの?』と言ったら、『とも先生に頼んで絶対お見舞いに行く!』と、意気込んでいた。
母様に頼んで、皇に会わせて貰うなんて……。
塩紅くんは小さい頃から母様に可愛がられてるみたいだから、そんなことも頼みやすいのかもしれないけど、オレは……。
母様との交換日記は、最初よりペースは落ちたけど、今も続いてる。
シロの散歩で三の丸に行った時、母様に会えば色々と話を聞いてもらったりする。
母様は、オレの話を何でも楽しそうに聞いてくれて、困ったことがあったら何でも相談してって言ってくれてるけど……。
だからこそ、禁止されていることを無理矢理許してもらうためのお願いなんて、母様にしたくない。
「はぁ……」
屋敷に帰って着替えを終えて、大きくため息を吐くと、いちいさんが『若様のことですか?』と、心配そうな顔をした。
「あ、はい。皇のお見舞いに……とか……駄目、ですよね」
もう五日、声も聞いていない。
「駒様にお伺いしてみましょうか?」
「あ、だったらオレが、自分で聞いてみていいですか?皇に会えないなら、ちょっと電話で話すだけでもって、お願いしてみようかなって……」
「そうですか」
いちいさんが嬉しそうににっこりするから、皇の声だけでも聞きたいみたいなことを言ってしまった自分が恥ずかしくなって、急いで言い訳を探した。
「あ!あの!授業の話とか……ノートもとってあるから、心配要らないよって……言ってあげたら、皇、安心するかなって。あの、風邪の時って、何か不安になったりするし……とか、思って」
いちいさんは『そうですね。そうして差し上げたら良いかと存じます』と、さらににっこりしながら、オレに電話を渡してくれた。
……全然、言い訳になってなかった?
恥ずっ!
『はい』
駒様はすぐ電話に出てくれた。
「あ……あの、雨花です」
『どうなさいましたか?』
「す、あ……若様は、大丈夫でしょうか?」
『もう熱も下がっていらっしゃいましたので、ご心配要りません』
「あ、あの、授業のノートをとったので、それを持って、お見舞いに行ったら駄目ですか?」
『ノートはすでにお詠の方様よりお届けいただきました。お見舞いにいらっしゃる必要はありません』
えっ?!ふっきーもノートとってたの?
『候補様が行事でもない日に、本丸をウロウロなさってはなりません。何度も申し上げているはずですよ?』
うっ……わかってます、けど……。
きっとお見舞いは駄目って言われるだろうって思ってたから、声だけでもって思ってたけど……。
ノートが必要ないなら、今、皇と話す理由がなくなっちゃった。
そのまま『わかりました』と、すごすご引き下がって電話を切った。
いちいさんには、皇にはお見舞いの必要はないようだと伝え、高遠先生の授業の準備があるからと言って、部屋を出てもらった。
「はぁ……」
高遠先生から出された宿題は、すでに終わっている。
夕飯になる前に予習をしておこうかと思ったけど、やる気が起きず、ベッドに横になった。
せっかくノート、書いたのに。
ふっきー、オレが休んだ時も、ノートのコピーをくれたくらいなんだから、皇にノートをとるなんて、ちょっと考えたらわかることじゃん。
オレはふっきーに何の相談もしないで、自分一人が皇のために何かをしようとしたんだ。
藍田は塩紅くんのやり方は汚いって言ってたけど、オレだって同じ。
ふっきーを出し抜こうとしてたんだから。
今日お見舞いに行きたいって言ったのも、皇が心配ってより、ただオレが、会いたかったからで……。
オレ、自分のことばっかり。
オレの誕生日のことだって、塩紅くんに言われるまで、皇の都合なんか少しも考えられなかったし。
皇の役に立つ存在になりたいなんて思ってるくせに、皇の事情とか、オレは全然考えてあげられてない。
「はぁ……」
ため息を吐いてベッドの上で寝がえりをうつと、急にドアがバンッと開いた。
「うわっ!」
驚いて飛び起きた視線の先に、白い着物姿の皇がいた。
「っ?!」
『何でいるの?』って聞く前に、息を切らしている皇に駆け寄って、思いっきり抱きしめてた。
「雨花……」
ついさっきまで、皇が病気でどうにかなるなんて、ちっとも考えてなかったのに、明らかにやつれた皇の姿を目の当たりにしたら、皇、すごく具合が悪いんじゃないかって、もうそれだけが心配で……皇に何かあったらどうしようって、怖くて……。
ノートがどうだの、そんなのもうどうでも良い!
皇……大丈夫なの?!
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