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駒楽誓晴詠楽梅晴雨③

✳✳✳✳✳✳✳ ふと目が覚めると、寝入る前、隣で寝ていたはずのシロの気配がなくなっていた。 いつの間にか、寝られたんだ、オレ。 シロ、ベッドで寝てるの、暑くなっちゃったのかな?床で、寝てる? 「シ、ロ……?」 目を閉じたままシロを呼んで寝返りを打つと、ふわりと独特な香りが鼻をついた。 え?……皇、の、香り? ……な、わけない。オレ、今、鼻詰まってるし。 見えない物が見えちゃうのは幻覚で、聞こえないものが聞こえちゃうのは、幻聴。じゃあ、香るはずのない香りを感じてしまうのは……なんていうんだろう? 皇の匂い……やっぱり、大好き、だな。 皇に、次いつ……会えるだろう。 会ったら、すぐに謝ろう。 すごい怒ってたから、しばらく、顔を合わせてくれなかったりする、かな? でも……。 皇、すぐ怒るけど。 いつも……許してくれた。オレはどっかで、今回もそうだって、思ってる。皇はオレのこと、許してくれるって。 だから、今度会ったら謝ろうなんて……呑気なことを言っていられるんだ。『次』があるって、信じてるから。 信じてるけど……その『次』は、いつ来るんだろう。 皇の香りを感じてしまうくらい……皇に、会いたがってるんだ、オレ。 明日は、会えるかな? オレが明日学校に行けたら、会える?かな? ……会いたい、よ。 「皇……」 「ん?」 「っ?!」 えっ?! 閉じていた目を咄嗟に開くと、オレンジ色のデスクライトに照らされた皇の顔が目に入った。 え……幻覚?オレ、熱、高かったし。 「起きたか?」 本、物? 「……皇?」 ホントに、本物? 触ろうと伸ばした手を、ギュッと握られた。 本物……だ。 「熱は……少し下がったか?」 オレの額に置かれた皇の手は、いつもと違ってひんやりと感じた。 「皇?」 「ん?」 本物、だよね? 額に置かれた手が、掛けられた声が、視線が……皇がもう怒っていないって、オレに教えてくれているように、優しい。 「塩紅、くんの、誕生日は?」 皇が怒っていないと安心すると、そっちが心配になった。 皇は着物姿で、ベッド脇に置かれた椅子に座って、オレの額に手を置いている。 お祝いには、行ったんだよね? 「……」 ベッド脇のチェストの上から、皇は無言でデジタル時計を掴むと、オレの目の前にぬっと差し出した。 時間は、1時を過ぎたところで、日付は6月20日に変わっていた。 「お祝い、もういいの?」 だって誕生日が過ぎたからって……今はまだ、塩紅くんが皇を独占してても、おかしくない時間じゃないの? オレの誕生日にはお前、朝まで、いてくれたじゃん。 「そなたは、晴れのことばかり気遣うのだな」 「だって……オレは、ただの風邪なのに……。誕生日の塩紅くんのこと、優先、しなきゃ……」 駄目じゃん。 「そなたの風邪は、余が原因だ。余がそなたを案ずるのも、側についていてやりたいと思うのも……迷惑か?晴れへの気遣いは、余を遠ざけるための口実か?」 「ちが……。なんで……」 何で、そうなるんだよ。 自分の思いとは正反対のことを言う皇に、どう言っていいのか……言葉が浮かばない。 何も言えずに皇の袖を握ると、皇は小さく息を吐いて、オレの手を包んだ。 「そうではないのなら……もう余を遠ざけるようなことを申すでない。晴れのことについては、そなたではなく、余が気遣わねばならぬことだ」 言われてみれば、確かにそうか。 「そなたは、ただ早う良くなるよう、それだけ案じておれば良い」 「……ん」 ポンッと頭を撫でられて、素直に返事をすると、皇はもう一度オレの手を取った。 「そなたの快方の妨げにならぬなら……余を、そなたの傍らに置け」 皇……。 「……ごめん」 「ん?帰れということか?」 「違うよ……バカ」 「あ?」 「さっき……嘘、吐いたから」 お前がいると眠れないなんて……嘘、言ったから。 「ん?」 大きく息を吐いて目を閉じると『つらいか?』と、皇はまたオレの額に手を置いた。 「シロ、いる?背中……寒い」 「そなた、目の前の余よりシロを呼ぶのか?シロはおらぬ」 顔をしかめた皇は、オレの体をくるりと回して、背中を向けさせた。 「何?」 ギシリとベッドをしならせて、布団の中に潜り込んできた皇が、背中からオレをふわりと抱きしめた。 「……まだ寒いか?」 つむじに、柔らかい感触が当たった。 オレを包むように回された腕に手を置いて首を横に振ると、ぎゅうっと強く抱きしめられた。 「シロには、このようにそなたを包むことは出来ぬぞ?」 「……うん」 シロと張り合うようなことを言う皇が可笑しくて、吹き出した。 「ん?」 「ううん。……あったかい」 「そうか」 皇……。

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