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駒楽誓晴詠楽梅晴雨④
「ふぁ……」
皇に包まれてると、ドキドキするけど安心して、眠くなる。
あくびをすると、皇はオレの頭にキスをして、ふっと笑った。
「寝るが良い。……ああ、だがそなた、余がおっては眠れぬのであったな」
「う……」
頭の上で、皇が鼻で笑った。
さっきオレがあんな言い方をしたこと、やっぱり怒ってたんだ。
でも……そうやって笑ってくれてるってことは、やっぱりもう……怒ってないん、だよね?
「だから……嘘吐いて、ごめんねって……謝ったじゃん」
後ろにぴったりくっついている皇の胸に、頭をコンコンぶつけると、ぎゅっと強く抱きしめられた。
「そうか。余がおっては眠れぬとは、嘘か」
「……わざわざ、繰り返すな」
恥ずかしいだろうが。
皇はまた鼻で笑って、オレの頭にキスをした。
「そなたはいつも、余の腕の中で、いつ起きるのかと思う程よう寝ておる。余がおっては眠れぬなぞ、ようそのような嘘が吐けたものだな」
「……」
確かに、オレ……皇がいても、いっつもぐーすか寝てるよね。
だって、皇あったかいし。隣にいると嬉しくて……皇がいるーって、安心して……眠くなるんだもん。
「そのような嘘を吐いてまで、余を遠ざけたいのかと……腹が立った」
皇が怒ってたのは、嘘を吐いたことじゃ、ないんだ。
前、皇に『余を譲るような真似をするでない』って、言われたことがあったっけ。
譲るな、なんて言ったって、本当にお前のこと、オレだけが独り占めしちゃったら、結局困るの、お前じゃん。
お前は一人しかいないんだから。
お前は色んな人に必要とされてる人なんだから。
譲らなきゃいけない時だって、いっぱいあるじゃん。
「だって……ちょっと風邪ひいただけのオレのとこより、誕生日の塩紅君のとこに行くのが普通だろ?」
お前は、自分のせいでオレが風邪をひいたと思ってるみたいだから、罪悪感があって、オレのところに来てくれたんだろうけど……。
「そなたは……余がそなたを放って、初めから晴れのもとに向かえば満足だったか?そなたが熱に浮かされておると聞き、余が……いかほどそなたを案じたか。そなたにとっては、要らぬ心配であったか」
「っ!」
オレ……塩紅くんにどう思われるか、みんなにどう思われるかってことばっかり心配で……皇がどんな気持ちで、オレのところに来てくれたのかなんて……考えてなかった。
皇がオレを心配してくれたことに、全然感謝もしてなくて……。
逆に、皇が誕生日の塩紅くんのところじゃなくて、オレのところに来たりしたら、オレが皇のことを引き留めて、塩紅くんのところに行かせなかったんじゃないかと思われるって……心配してた。
去年のオレの誕生日、オレが皇のことをわざわざモナコから帰らせた、とか、塩紅くんに言われたみたいに……また、そんな風に思われるんじゃないかって……そんな心配ばっかりしてたんだ。
「ごめん」
オレ……塩紅くんに酷い奴って思われるのが怖くて……そればっかり考えてて、皇が心配してくれてるってことに、気付いてなかったっていうか、気が回ってなかったっていうか……。本当に、ごめん。
皇の腕の中で体を回して頭を下げると、皇の胸に顔を埋めるような形になった。
お前、いっつも許してくれるから、お前なら大丈夫だろうって……お前のこと、ないがしろにしてた。
お前のこと大事にするって誓ったはずなのに……オレ、変なことを怖がって、またお前のこと、大事に出来てなかった。
「ごめん……」
皇は、オレの頭にコツンと頭をぶつけて『余もむきになって腹を立てた。許せ』と、オレを抱きしめた。
「余を遠ざけるための嘘でないなら、もう良い」
「……ん」
遠ざけたいなんて……思うわけない。
皇にさらに体を寄せると、皇は『早う寝ろ』と、オレの頭にキスをして、またオレを背中から抱きしめた。
皇がいると……苦しかったのも、不安だったのも……全部、なくなってく。
「何か欲しければすぐ申せ」
「ん」
「寒くはないか?」
「ん」
「苦しければすぐ申せ」
「ん」
早く寝ろとか言ったくせに、心配して話し掛けてくる皇に、もう一度ものすごく謝りたいと思ったけど……そうしたらまた、皇もオレに謝ってくるような気がしたから……違う言葉を探した。
「……皇」
「ん?」
「ありがと」
「……早う寝ろ」
強く抱きしめられて、ちょっと苦しいと思ったけど……そのままでいたくて、苦しいって言わなかった。
強く抱きしめられたまま、オレは皇の腕の中で、いつの間にか、眠りについた。
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