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駒楽誓晴詠楽梅晴雨⑥
6月23日 雨
今日から期末テストです。
先週の金曜日、熱は下がったものの、皇から学校を休むように言われて休んだため、復活早々、期末テストを迎えることになった。
土日、高遠先生に勉強をみてもらったから大丈夫だとは思うけど。
『大丈夫』程度に頑張るだけじゃ、駄目だよなって思う。
だって……候補の中で一番成績が下なんて……嫌なんだ。オレ、何気に負けず嫌いだし。
ふっきーや天戸井級にはなれないかもしれないけど、何とか塩紅くんには追い付きたい。
「ばっつん、おはよう」
「あ……おはよう」
そんなことを考えながら登校すると、待ち伏せでもしていたかのようなタイミングで、靴を履きかえるオレの隣に塩紅くんがぴったり立った。
「ちょっといい?」
「え?」
教室でテスト範囲の見直しをしたいと思っていたけど、オレは塩紅くんに手を引かれるまま、特別教室棟入口の、人目につかない場所まで素直について行った。
何の用事だろう?
先週の塩紅くんの誕生日のことが、すぐに頭に浮かんだ。
誕生日が過ぎたからって、夜中、皇がオレのところに来ちゃったのを責められるのかなって、ちょっとビクビクしたけど……でも、オレがビクビクすることじゃないよね!と、唇を結んで、足を止めた塩紅くんに、深呼吸してから声を掛けた。
「どうしたの?」
「ばっつんには、謝っておきたいなって思って」
「え?」
何を?え?
誕生日のことを責められるとばっかり思ってたのに……。
塩紅くんが何をオレに謝るの?
「俺は、そんなことする必要ないって止めたんだよ?でもうちの一位、相当怒っててさ。ごめんね」
「え?」
何の、話?
「あれ?聞いてない?まだ動いてないのかな?」
「え?何を?」
その時、一時間目の予鈴が鳴った。
「あ!行かなきゃ!とにかく、ごめんね!俺はホント、止めようとしたんだよ?じゃあね!」
「え……」
塩紅くんの話が全然見えない。
でも、そんなことを考えている場合じゃない!
オレは急いで教室に向かった。
窓際の一番後ろの席には、すでに皇が座っていた。
教室に入ってすぐに視線が合った皇の口が、わずかに動いたのがわかった。
首を傾げると、皇は席を立ってこちらに向かって歩いて来たのに、一限のテスト監督の先生が教室に入って来たのを見て、すぐに席に戻ってしまった。
何だろう?何か用事があったんじゃないのかな?
でも、今はとりあえずテストに集中しなくっちゃ!
三科目のテストを終えて、帰る時間になっても、皇は何も言ってはこなかった。
もう用は済んだのかもしれない。
さして気にもとめず、オレは一週間あるテスト期間、少しでも成績が上がるように、ものすごく勉強を頑張った。
塩紅くんに謝られたことも、皇が何か話したそうにしていたことも、すっかり忘れていた期末テスト最終日の朝、駒様が急にうちの屋敷にやって来た。
「おはようございます。本日は、新たに決められました、候補様方の規則の通達に参りました」
「規則?」
こんな朝早くから?何だろう?
「通達致します。若様におかれましては、本年度ご選出の、お楽様、晴れ様に、より多くお渡りいただくこと、また、皆にお渡りの順番を告示することで、各候補様への公平さをお守りいただくということをご了承いただきました。こちらが来週からのお渡りスケジュールでございます」
駒様が手渡してくれた紙には、これから一ヶ月分の、皇の渡りのスケジュールが書かれていた。
6月30日から始まっている日付の下には、駒様、楽様、誓様、晴様、詠様、楽様、梅様、晴様、雨花様……と、候補の名前が順番に書かれている。
これって……天戸井と塩紅くんのところに、他の候補より倍、渡るってこと?急にどうして?
隣で聞いていたいちいさんが、その紙を見て声を荒げた。
「これは、一体どういうことですか!」
そうだよね。本当に、急にどうして?
「楽様と晴れ様は、私共から致しますと二年の遅れがございます。それを埋めるための特別措置とのこと。ご了承ください」
「それが理由でしたら、雨花様とて駒様方よりも一年遅れていらっしゃいます!雨花様とて、同じように特別措置を受けてしかるべきではないのですか!」
こんなに声を荒げるいちいさん、久しぶりに見た。
駒様はいちいさんを見つめたあと、小さくため息を吐いて口を開いた。
「先日……晴れ様の誕生日に、若様が晴れ様への祝いもそこそこに、雨花様にお渡りになられたと、大老様に注進した者がおります」
「えっ?!」
「大老様はそれを大きな問題と受け止め、今申し上げました特別措置を、直臣衆、家臣団にご提議なさり、昨日、承認されました」
そこで少し黙った駒様は、ゆっくりと床に膝をついて、オレに向けて頭を下げた。
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