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夏休み~受験生だっつうの~①

7月12日 晴れ 今日から、神猛学院高等部は夏休みです。 オレは今、受験勉強合宿をするため、高遠先生が待つ合宿所に向かう車に乗っている。 無理矢理、合宿をさせられることになったわけじゃない。オレが猛烈に勉強したいと高遠先生に言ったら『じゃあ合宿すっか』という話になって、今に至るわけで。 期末テスト最終日……新しい"候補の規則"を受けた日の、皇の心配そうな顔を見てオレ……強くなりたいって思った。 で、どうしたらいいのか、色々考えた。 強くなりたいって、腕っぷしのことじゃない。 色々考えているうちに、自分が受験生だってことを思い出して……って、いや、忘れてたわけじゃないんだけど……改めてって意味で思い出して。 医者になるところから、確実にやっていこうって……まずはそっから始めようって、決めたんだ。 オレが医者になりたい理由は、皇が助けたい人をオレが助けたいから。皇が大事にしてる鎧鏡家のみんなの健康を、母様みたいに守れる人になりたいって、思ったから。 そうなるためにも、今出来ることを精一杯やろうって、決めた。 だから高遠先生に、がむしゃらに勉強したいって、お願いしたんだ。 高遠先生から合宿の話をされてすぐ、皇と駒様に受験勉強の合宿に行ってもいいかと聞くと、聞いたオレがびっくりするくらい、どちらからもあっさりOKが出た。 駒様からは『期末テストの結果を見る限り合宿もやむなしですね』とか言われてのOKだったんだけど……。 オレ、期末テストは今までで一番いい、9位だったのに。中間テスト、悔しかったから頑張ったんだ。 でも東都大の医学部を目指すなら、もっと頑張らなきゃ駄目ってことなんだろうな。まぁ、そうだよね。 この前の期末テストで、ふっきーが1位に返り咲いた。 順位表を見つめる2位の天戸井が、ものすごい眉間に皺を寄せているのを、オレ、見ちゃったんだよね。 ……って、オレだけじゃなく、大勢が見てたとは思うけど。天戸井、ふっきーのこと、ライバル視してるもんなぁ。 期末テストの結果発表のあと、今回の期末テストで、ふっきーが先生から特別扱いされたんじゃないか……なんて、寝も葉もない噂が出てるって、サクラが教えてくれた。 それを聞いて、バカバカしい噂が出るもんだなってちょっと笑えた。 ふっきーがよく先生に呼ばれてたから、そんな風に言われたんだろうってサクラは言ってたけど、ふっきーが先生のところに行ってたのは、なんちゃらオリンピックのためなのに。 もともと頭のいいふっきーが1位に返り咲いたくらいで、先生に特別待遇されてるなんて話、誰も信じるわけない。 そのなんちゃらオリンピックは、今度の月曜日、14日から始まるので、ふっきーは今日、なんちゃらオリンピック会場に向かったと聞いた。 パーティーが苦手なふっきーは、大々的な壮行会は遠慮したらしいけど、松の丸ではちょっとしたお祝いをしたみたいだ。 そういう話を聞くと、オレもホントに頑張らなきゃって思う。 引退が迫る生徒会は、二学期早々、新しい役員の選挙がある。 オレたちの時と同じように、信任投票になるって聞いた。 田頭がオレたちを好き勝手決めたみたいに、田頭が決めた新会長が、あとの役員を好きに決定するらしい。 新役員については心配するなと、田頭は笑って、オレとかにちゃんの肩を叩いた。 田頭とサクラはこのまま神猛の大学部にいくエスカレーター組で、オレとかにちゃんは受験組だ。 あとのことはオレらに任せて、受験勉強頑張れ!と言ってくれた田頭が、久しぶりに頼もしく見えた。 ってことで、ようやくこの夏休みから、オレは受験生らしい生活を送ろうと決めたんだ。 そんなこんなでさっき、いちいさんとふたみさんと一緒に、合宿所に向かう車に乗り込んだ。 合宿所には、いちいさんとふたみさんが一緒について行くと言ってくれた。 梓の丸を出る門をくぐり、二の丸を囲むようにそびえ建つ塀の脇の道路を進んだ。 三の丸にシロの散歩に行く時の、お馴染みの道だ。 でもお馴染みのこの道が、今は全然違う道に見える。 いつもは固く閉ざされている二の丸への入り口の頑丈そうな門が、大きく開かれていたからだ。この門が開いているのを、オレは初めて見た。 他のところの門よりも、二倍以上あるんじゃないかっていうぶ厚い門をくぐって、二の丸を右側に見ながら、車はどんどん進んだ。 二の丸脇のお堀の上にかかる一本橋を通り越して、車はまた深い森の中に入って行った。 梓の丸の屋敷から、車で10分は走ったかな? うっそうとした森の中に建つ小さな建物の前で、車がゆっくり停まった。 「着きましたよ、雨花様」 「……へ?」 梓の丸から車で10分、ですけど……。 え?着いた? ……合宿って、もっと遠いところでやるもんじゃないんですか?普通は! 皇があっさり合宿を承諾した理由が、今わかった。

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