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夏休み~受験生だっつうの~⑥
朝早くというか、夜遅くというか……変な時間に皇を見送って、もう一度ベッドで寝たためか、ものすごい眠い。
今朝は日課の散歩もさぼって、朝ご飯のあと、またベッドに戻ってしまった。
あくびを噛み殺しながら、ようやく今日の授業の準備をしていると、ノック音とほぼ同時に、勢いよくドアが開いた。
「おはよう!ばっつん!もう授業始まるよ!」
塩紅くんが、ものすごい爽やかな笑顔で立っていた。
何の返事もしてないのに、急に入って来る?!
まぁ、いいけどさ。
オレは今、塩紅くんに寛大になっている気がする。
いやいや、幼馴染じゃなかったとしても、別に何がどう違うわけじゃ、ないんだけど。
「おはよう。もうすぐ行くよ」
「……あれ?」
塩紅くんは、上げていた手を下ろして、くんっと匂いを嗅ぐような仕草をすると、首を傾げた。
「え?」
何?臭い?
「ちーくん……来てた?」
「えっ?!」
嘘っ?!皇の……匂い?残ってる?
皇の匂いって独特だから、オレも皇が近くにいると、すぐわかる。
だけど、一晩ずっと一緒にいたら……鼻が慣れちゃって、皇の匂いがしてるのなんてわかんない。
どうしよう……。どうしよう。ホント、匂うのかな?
皇は、夕べ誓様のところに渡ってるはずなのに……。ここに来てたなんてバレたら……色んなことが、色々とまずい。
「まさかね?あははっ。早くしてよ?」
「あ……うん」
塩紅くんがドアを閉めたあと、自分がものすごい冷や汗をかいているのに気付いた。
……バレて、ない?大丈夫かな?夕べ皇は、誓様のところに渡ってたって、誓様もみんなも、そう証言するって、皇が言ってたし……。
「はぁ……」
大きく深呼吸をして、ドキドキを落ち着かせた。
自分がものすごく悪いことをしている気分で……。
いや……実際、悪いこと、だよね。規則を破ったんだから。
でも……自分が会いたくもないのに皇が来たっていうなら、これほどの罪悪感にはさいなまれてないと思う。
……会いたかったんだ。
オレがすごく会いたくて、会ったら駄目なのに会ったから、すごく悪いことをしてるって、思うんだ。
オレは、周りの人にどう思われるかばっかり気にして、皇を傷付けてたことに気付かないでいて……。
嫌な奴って思われるのが怖くて、本当に大事なものを、すぐに見失ってしまう。
もう、そんなの嫌だから……。
規則は守らないといけないと思う。会ったらいけない日に、こっそり会うのは、ずるいことだと思う。誰かに責められるようなことは、したくないと思う。
でも……。
オレが本当に大事なのは……皇、だから。
来たら駄目なのに、オレのところに来てくれた皇の気持ちのほうが……ずっと、大事。
そう思っても……やっぱり罪悪感はわいてきて、誰に対してかもわからないけど、心の中で小さく『ごめんなさい』と、呟いた。
皇のことは、バレてはいないと思うけど……翌日から塩紅くんは、朝必ず、オレを部屋まで呼びに来るようになった。
ふっきーがなんちゃらオリンピックで、最も成績が優秀な人たちに贈られる『金賞』を受賞したと連絡が来たのは、合宿が始まってから六日目の7月17日に、お昼ご飯を食べている時だった。
ふっきーは開催国のメンバーとして、ゲスト国のみんなを、日本の有名処に案内してから、曲輪に戻って来るという話を聞いた。
その日の午後、陣中見舞いにと、ケーキを持ってやって来てくれたあげはが『曲輪の中では、お詠様の話題でもちきりですよ!』と、目を丸くしながら話してくれた。
「すごいなぁ、ふっきー」
「これでまた、お詠様が奥方様に一番近いとか、噂が出ちゃうんでしょうね」
あげはは、ふたみさんがいれてくれた紅茶を一口飲んで、口を尖らせた。
「そうかもね」
確かに……そうだよなぁ。
そう言われるだけの実績を、ふっきーは残したんだ。
「こら、あげは」
「ああ、ふたみさん。いいんですよ。オレも、頑張りますので!」
「そうですよ。噂はただの噂じゃないですか。若様がコンピューターが得意の才媛じゃなきゃ、奥方様には選ばないって言うなら話は別ですけど。うちの雨花様のほうが、総合的に見て断然いけてますから!」
「ありがと、あげは」
いや、間違いなく、総合的にみたって、ふっきーのほうがイケてるけどね?
家事能力とか、皇がどれだけ好きか……みたいなとこだけ見てもらえたら、オレだって自信あるんだけど。
その日の夜、駒様が合宿所にやって来て『鎧鏡家主催お詠の方様情報処理技術オリンピック金賞受賞記念祝賀会招待状』と、長々と表書きされた封筒を渡してくれた。
祝賀会、やるんだ?しかも、鎧鏡家主催とか……何それ?すごいなぁ。
壮行会を拒んだっていうふっきーも、さすがに鎧鏡家主催じゃ嫌とは言えなかったんだろうなぁと、ちょっと笑えた。
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