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夏休み~受験生だっつうの~⑧

納涼祭は無事終わり、すぐにふっきーの祝賀会会場である、本丸の広い和室に移動させられた。展示会が開かれた、あの広間だ。 祝賀会には、家臣団さんたち、直臣衆さんたち、松の丸の側仕えさんたち、その他ふっきーの関係者さんたちが集められたようで、上座には、ちょこんとふっきーが座らされていた。 主催者である、お館様、母様、皇は、一番奥のほうの席に、並んで座っていた。 席札の名前を見る限り、家臣団さんと直臣衆さんが、対面するように座っているようだ。 ふっきーのすぐ前の席から七番目に、父上の姿が見えた。 父上は他の家臣さんたちと楽しそうに話しながら、オレを気にしてくれているのがわかる。 お偉いさんばっかりが集まる席ってことで緊張してたけど、父上がすぐそこにいるだけで、少し緊張が解けた。 祝賀会が始まると、出席者は順番に、ふっきーへの祝辞を述べていった。 直臣衆の代表さんのあとに、家臣団の代表として呼ばれたのが、大老様だった。 大老様を、ここまで近くで見たのは初めて……だと思う。 行事の時、大老様はいつも遠いところにいたから。 新年会は、こんな感じで開かれたのかもしれないけど、オレは出られなかったし……。 今、初めて大老様の顔をしっかり認識した。 眉間に皺を寄せながら、一つ咳払いをした姿は、気難しい印象だ。 咳払い一つで、この広い和室を、完全な静寂にしてしまった大老様は、すごい人なんだっていうのがわかる。 でも、こうして近くで見てみると、大老様は、オレが持ってたイメージと全然違っていた。 遠目で見た時は、もっといかつい人だと思ってたんだ。 実際は、細身でスラッとした、オシャレでダンディで、かっこいいおじさんだった。 オシャレっていっても、大老様は今、着物を着てるから、服のセンスがいいって意味じゃなくて……。 でも、絶対洋服のセンスもいいに違いないっていう雰囲気を醸し出している。雰囲気がオシャレなんだ。 大老様は、まずはふっきーに一礼して、色んなところに頭を下げてから、口を開いた。 「お詠の方様、このたびは大変ご名誉な賞の受賞、誠におめでとうございます。鎧鏡家臣団一同、心よりお祝い申し上げます。……と、共に、このような素晴らしい候補様を迎えられた若様へ、お祝い申し上げます」 そのあと大老様は、なんちゃらオリンピックがいかにすごい大会か、そこで金賞を受賞するのが、どれだけすごいことかという話を始めた。 そんな大会で金賞を受賞したふっきーは、めちゃくちゃすごい人で、そんなふっきーが皇の奥方様候補ってことは、鎧鏡一門の喜びであり、誇りであると、にっこり笑った。 話の内容は置いておいて、大老様の笑顔にビックリしてしまった。 皇から、大老様の怖い話ばっかり聞いていたオレは、大老様に対して『怖い』『厳しい』ってイメージばっかり膨らんでいたからだ。 あんな風ににっこり笑える人なんじゃん。実は全然、怖くないんじゃないの?母様の噂みたいに。 大老様は、ふっきーがいれば鎧鏡家は安泰だ、みたいなことを言って、挨拶をしめくくった。 何か……ムッとするなぁ。 ふっきーだけがいればいいみたいに聞こえる。 そう思っていると、オレの隣に座っている天戸井が、また小さく舌打ちしたのが聞こえた。 うん、まぁこれはさ、天戸井じゃなくても、あれだけあからさまにふっきーを推されれば、舌打ちしたくもなるよ。 大老っていう要職についている人が、こんな席で、あんなあからさまに一人を推していいの? 大老様は大きな拍手の中、着席した。 納涼祭では平気だったのに、祝い膳を食べている間に、何だか気持ちが悪くなってきた。 家臣さんたちが飲んでいる日本酒の香りが、ものすごくきつく感じる。 匂いに酔ったのかなぁ? あとどれくらいで終わるんだろう? オレは、すぐ後ろで控えてくれているいちいさんに、気持ちが悪いことをそっと伝えた。 いちいさんは、すぐに駒様に耳打ちしに行ってくれて、そのあと駒様が、皇のところに耳打ちしに行ってくれた。 駒様は、皇のところから戻ると、オレのところに来て、静かに退出なさってくださいと言ってくれた。 「ごめんなさい」 「歩いて戻れますか?」 「はい。大丈夫です」 オレは、いちいさんと一緒に、そっと広間を出た。 「ごめんなさい、いちいさん」 「いいえ。大丈夫ですか?」 「はい。お酒の匂いがきつかったのか……」 「鎧鏡一門は、揃いも揃って酒宴が好きですからね」 部屋の外に出て深呼吸をすると、少し胸のむかむかはおさまったけど、無理して倒れたら、誰よりふっきーに申し訳ない。 このまま帰ろうと廊下をゆっくり歩き出すと、後ろから声を掛けられた。 「おや。雨花様、でしょうか?」 振り向くと、眉を寄せた大老様が、顎を撫でながら立っていた。

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