323 / 584
夏休み~息抜きは必要だよ、うん~②
「腕前を見せろって……どうやって?」
若干腹立たしげにそう聞くと、皇は片眉を上げて『そなた、相当な腕前らしいな』と、挑戦的な顔をした。
「まあね」
確かにテニスには自信がある。
「ほう?自信があるなら、余と勝負をせぬか?」
「勝負?……別にいいけど」
勝負とかわざわざ言うってことは、皇もテニス上手いのかな?
「そなたが勝てば、どのような望みも叶えてやろう」
「えっ!?ホントに?!」
「ああ。……たまには息抜きも必要だ」
そう言って皇がオレの頭を撫でた。
皇……朝からオレの機嫌が悪いって、気にしてくれてたっけ。
オレが勉強ばっかりで疲れて、機嫌が悪いとでも思ったのかもしれない。
そっか!オレが得意なテニスで勝負をしてオレに勝たせて、好きな物をプレゼントして機嫌を直そうとしてくれてるのかも!
「……ありがと」
「ん?」
「ううん。わかった!勝負する。えっと……ラケットは?」
「一位、ラケットはあるか?」
「はい。ございます。お着替えを終えるまでには用意致します」
一位さんはにっこり笑って、和室を出て行った。
「そなたが勝てば、そなたの望みを何でも叶えるゆえ、余が勝ったら、そなた、余の言いなりになれ」
「……はい?」
ちょっと待て。何だ、それ?
お前、オレの機嫌を直すために、テニスの勝負をしろ、とか、言ってくれてる……ん、だよね?
「余が勝ったら、何の文句も言わず余の言いなりになれ。良いな?」
「ちょっと待て!お前、テニス強いの?」
オレの機嫌を直すために、わざと負けてくれる気じゃないの?
「ん?試合らしい試合は、未だしたことがない」
何だよ、もー!やっぱり、オレの機嫌を直すためのテニス勝負なんじゃん。
ああそっか。一応勝負なんだから、オレが勝った時のことばっかり約束したら、それらしくないもんね。
「わかった。お前が勝ったらお前の言いなりね?」
っていうか、そんなことを賭けたところで、オレはいっつもお前の言いなりみたいなもんなんだから、万が一負けたとしても、何の痛手もないしね。
「何の文句も言わず、言いなりになるのだぞ?」
「うん。わかった。お前もオレの望み、何でも聞いてくれるんだよね?」
「ああ。そなたが勝てば何でも聞いてやる」
「絶対だよ?」
「そなたこそ、忘れるでないぞ」
「男に二言はない!」
皇は優しげに微笑んで、もう一度オレの頭をポンポン撫でた。
「……」
恥ずっ!
勝ったら皇に何をしてもらおう?
欲しい物は特にないけど……して欲しいことは……たくさんある。
あれ?でも……そんなこと、言うの恥ずかしいじゃん!
え……どうしよう。
何でも望み通りとか言われても……。ギューって……とか……うわっ……そんなこと、言えない!チューっとか……絶対無理!うわっ!どうしよう……。何してもらおう!恥ずかしくないお願いって、何?!
今日、やっぱり泊まって……とか……うわああああ!間接的に、何かイヤラシイことして欲しいって言ってるみたいじゃん!えっ……ホント、どうしよ……。
ちょっと待った!オレの願いって……恥ずかしいことばっかりなの?
……。
……。
……恥ずかしいこと、ばっかりだよ!
ええええっ?!
当たり障りのない物を貰う……とか?
えー……せっかくなのに、何かそれじゃもったいないし。
何かないかな?えー……どうしよう……。
あ!一緒に散歩、とか!ここのところ、シロの世話は母様に任せっきりだから、今日の夜の散歩、一緒に行ってもらう……とか。そしたら、そこまでは一緒にいられるし……。
試合をしている間に、他にいい案が浮かばなかったら、それをお願いしようかな。
そんなことを考えながら、とおみさんに出して貰ったテニスウェアに着替えて、皇と側仕えさん何人かと一緒に、曲輪の南側にあるテニスコートに向かった。
「そなた、今日は良いが、万が一他でテニスをするようなことがある場合は、そのような恰好をするでない」
「は?」
そのような恰好って……とおみさんが出してくれたのは、普通の半袖と短パンのテニスウエアだけど……。
「そのように足を出しおって」
「は?学校の体操着と変わらないじゃん」
「学校の体操着は膝まであろう!全く違う!」
「足、出てるからってこと?……見苦しいなら、目ぇつぶってりゃいいじゃん」
「見苦しい?……そなたは誠、人目を全く気にせぬで困る」
「人目って……男が足出して、何が人目だよ」
「話にならぬ」
「こっちのセリフだよ!……あ!」
今、皇に対するお願い事が閃いた。
プール特訓の水着といい、今回のテニスウェアといい……今後一切、オレの服装に対する口出し禁止を約束させてやろう!
「そなた……今おかしなことを思いついたであろう?」
「はっ?!」
ホントこいつ、変なところで鋭いんだから。
ともだちにシェアしよう!