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夏休み~息抜きは必要だよ、うん~③

テニスコートに着くと、皇はおかしなことを聞いてきた。 「そなた、筋肉痛の具合はどうだ?」 「へ?ああ……まだ痛いけど……」 まぁでもこれくらいで、ろくに試合もしたことないとか言ってるお前に、負けるわけないから安心して。 「そうか」 そう言ってボールを掴んだ皇が、不敵にほほ笑んだ顔を見た時……何て言うか……嫌な予感はしていたんだ。 「まずは、風呂だ」 「……」 ねぇ、お前はさ、オレの得意なことで勝負しようとか言って、オレに勝たせてさ、オレの望みを叶えて、機嫌を取ろうとしてくれてたわけじゃなかったの? いや、それオレが勝手にそう思ってただけだけど。 何でお前が勝ってんの?ねぇ!何でオレが、お前の言いなりになってんの!ねーっ! 確かにオレが、勝手にそう思ってただけだけど! オレ……お前のこと、買いかぶり過ぎてたみたい。 「どう致した?」 「……くそおおおおっ!」 3セット先に取った者勝ちというルールのもと始まったテニス勝負は、2セット先取していたオレではなく、最終的に皇が勝った。 今にして思えば、こいつ……勝負をしようなんて言い出した時から、オレの体力を奪って勝つ作戦だったんじゃないのっ?! オレが筋肉痛なのを知ってて、最初から横に揺さぶりをかける球ばかり打ってきやがって……。 最初は下手くそゆえの、おかしな返球かと思って付き合ってやってたけど、もしやこれは、筋肉痛のオレに揺さぶりをかけるための作戦なんじゃないの?!と、気付いた時には、すでに2セット目の終盤だった。 筋肉痛のギクシャクした体で無駄に走り回らされたオレは、その頃すでにぜーぜー息を切らしていて……。 そんなんで、3セット目を落とした時には、すでに体力は限界で、結局そこからガタガタと3-2で皇に負けて……今に至る。 ろくに試合もしたことないとか言ってたくせにっ! こいつのオールマイティー能力を侮っていたオレのバカ! そうだ!皇がテニスをしようって言う前に、珍しく閃いたような声を上げてたじゃん! あの時、この企みを思いついたんじゃないの?! それを、自分を勝たせようとしてくれてるんだなんて、浮かれまくってたオレのバカ! 「そなたの体調が万全であれば、そなたは今頃望みの物を手にしておったであろうな」 「……」 めちゃくちゃ機嫌のいい皇が、オレの背中をポンっと叩いた。 この話っぷり!絶対こいつ、オレが筋肉痛なのわかってて、オレが食いつきそうなテニスで勝負しようとか言い出したんだ! ああ、そうでしょうよ。筋肉痛じゃなかったら、絶対オレが勝ってたよ!テニスなら、絶対オレのが上手いもん!そう思ったから勝負したのに! くっそー!筋トレしまくった夕べのオレのバカ! 「何だ、その顔は?そなた、何の文句も言わず、余の言いなりになると誓ったのを忘れた訳ではあるまいな?男に二言はないのではなかったのか?」 「……ないよっ!くっそおおっ!風呂でも何でも入ってやるっ!」 もうやけくそだ! 風呂なんか、いっつも無理矢理一緒に入らされてるし! そうだ!オレ、いっつも皇の言いなりみたいなもんなんだから、こんな勝負に負けたところで、普段と変わりないし! 普段と変わりないんだろうけど……これが勝負に負けてやらされてると思うと、めちゃくちゃムカつくー! 「良い心掛けだ。どうだ?昼に食べたい物は決まったか?」 「……ほうれん草のキッシュ!」 「一位」 「かしこまりました」 いちいさんは嬉しそうに笑いながら、ふたみさんにすぐ電話をして、ほうれん草のキッシュを作るように言っていた。 「戻って風呂だ。背中を流させろ」 「くそーっ!背中でも何でも流し……え?流させろ?」 鼻で笑った皇は、自分のタオルで、汗だくのオレの顔をバフバフ拭いて『早う戻るぞ』と、オレの背中を押した。   お風呂で皇に全身洗われて、抱き上げられて湯船に入れられて、タオルで拭かれて、着替えをさせられて、髪を乾かされて、和室に運ばれた。 それが皇の”命令”だった。 お風呂から出ると、和室にお昼ご飯が運ばれて来て、オレが食べようとすると『箸は持つな』と命令されて、皇にご飯を食べさせられた。 あまりの恥ずかしさに、全く食べた気がしなかった。 食器を下げてもらったあと、布団に横にさせられて、中途半端に服を脱がされた。 うわぁあああああ!とうとう来た!と、思っていたら『薬司特製湿布だ』と、皇に体中湿布を貼られて、またきっかり服を着せられた。 「……」 何?これ? 何なの?これ! 放置プレイって聞いたことあるけど、これは何?過保護プレイ? 言いなりなんていつもと同じじゃん!とか思ってたけど、これ……全然違う! だってこんなの……皇に世話を焼かれるのは初めてじゃないけど……こんなの……恥ずっ!

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