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夏休み~息抜きは必要だよ、うん~④
「余に頼るのに慣れて参ったか?」
満足げな顔をして、皇はオレを抱きしめながらそう言った。
「え?」
皇に手を引かれて、布団の上に寝かせられると、皇はオレに腕枕をしながら『そなたの気に病んでおる理由を話せ』と、オレの頭にキスをした。
まさか、それをオレから聞き出すために、勝負とか言い出した、とか?……嘘。
「それって……命令?」
「そうだ。そなたは余に頼るのを良しとせぬゆえ、無理矢理聞き出すほかあるまい」
やっぱり……。
「……バカ」
「今のそなたは、余の言いなりだ。そなたが朝から気に病んでおる真の理由を正直に話せ」
ホント、バカ。
そんな理由でテニス勝負をしようなんて言い出したとか……。
オレの筋肉痛を利用して勝って、言いなりにさせるなんて!とか思ってたけど……皇がオレを言いなりにさせたかったのは、オレが朝からへこんでる理由を知りたかったから、とか……。
わざわざこんなまどろっこしいことをしてまで、オレのへこんでる理由を知りたがってるなんてわかったら……話しちゃうじゃん。
大老様から言われたとは言わなかったけど、昨日、年中行事にまともに出られない候補が、行事を取り仕切る御台所様になれるわけないって言ってるのを聞いちゃって……と、皇に話した。
「そなた……御台殿と何やらこそこそしておるようだが、御台殿が行事でよう倒れられ、しばらく行事に参加出来なかった時期があるという話は聞いておらぬか?」
「あ……」
そっか!母様、丸々行事に参加出来なかった年があるって言ってた!
あれ?でも母様は、自分が金髪の不良で幽閉されてたから行事参加出来なかったって言ってたけど……。
あ!母様のその頃の話は、鎧鏡の黒歴史で、皇は知らないことなんだった!
「聞いた」
理由は違うけど、母様が行事参加出来なかったのは、聞いてる。
「御台殿が行事参加出来なかったことがあるのを知っておるに、何を気に病むことがある?御台殿は今、しっかり行事を仕切っておられるではないか」
「……そっか」
そうじゃん!母様、前に言ってたじゃん!鎧鏡家の嫁なんてただの肩書で、そうなってからいくらでもそれらしくなれるよって。
皇が好きって気持ちが、候補の一番の資格だって。
現御台様の母様が言ってるんだから、間違いない!それならオレ……自信、ある!
「そなたが、そのようなことで気に病むようになったとは」
「は?」
「……良い。そなた、早う筋肉痛を治せ」
「早く治せって言ったって……」
「今はゆっくり体を休ませよ」
そう言った皇に腕枕されたまま、起き上がるのを許されずに、オレはいつの間にか眠っていた。
夕べから気になってたことがスッキリして安心したからか、爆睡していたようだ。
日がだいぶ落ちた頃ふっと目を覚ますと、肘をついてオレを見下ろしていた皇が『体はどうだ?』と、オレの髪をふわりと撫でた。
「あ、スッキリしたかも!」
さすが鎧鏡家薬司さん特製湿布!
体のギクシャクが、だいぶいい。
皇は『そうか』と笑って、オレのおでこにキスをした。
「そなた、いつ合宿所に向かうつもりだ?」
「え……うーん。ご飯食べてから、かな」
すでに、勉強しなきゃ!なんていう変な焦りはなくなっていて、このままここで、皇にこうされていたい……とか思ったけど。
戻るって言っちゃったし……今更、お前と一緒にいたいから、やっぱり明日戻るとか、言えない。
「そうか。では、夕餉までに車を用意させよう」
「え?」
皇は、携帯電話を取り出すと『夕餉までに車を持って参れ』とだけ言って、電話を切った。
だから、それで通じるのかっつうの。その電話の相手誰?
……って、え?車を持って参れ?って、何?
「本丸の車で、合宿所まで送ってくれるの?」
「余の車で送って参る」
「……は?」
余の車?お前の車?え?
「免許を取った」
「……は?」
「車の普通免許を取ったのだ」
「……えっ?!」
普通免許って……車の免許?え?ちょっ……え?
「えっ?皇、運転出来るの?」
「そうだ」
「ちょっ……え?皇が運転して、オレのこと合宿所まで送ってくれるってこと?」
「そうだ」
うわ……。
うわぁ!いつの間に?何か……めちゃくちゃ、うわぁ……興奮!
皇が運転する車に乗せてもらえるとか……うわぁ!
「いつ取ったの?免許」
「ついこの前だ」
そうだ。皇はしらつきグループの勉強をするのが終わって、時間に余裕が出来たって言ってた!まさか免許を取っていたとは……。
「免許取ってから運転した?」
「少し前に一度な。小言を言う駒を後ろに乗せて、曲輪の中を走った」
「へぇ……」
駒様が、皇が一番最初に車に乗せた人、なんだ。
ちょっと……ちぇっ。
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