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夏休み~息抜きは必要だよ、うん~⑧
皇の車が見えなくなるまで見送って、自分の部屋に戻った。
でも、皇がちゃんと本丸まで帰れたかどうか心配で、課題が手につかない。
オレは、本丸に電話を入れてみることにした。
オレが知ってる本丸の電話番号って、駒様直通の番号なのかな?
電話をかけるとすぐに『はい』と、駒様が電話に出てくれた。
「あ、雨花です」
「はい。どうなさいましたか?」
「あの……す……あ、若様は、戻ってますか?」
「いいえ。ご一緒ではなかったのですか?」
「あ、はい。さっきまで一緒だったんですけど……」
「どうなさいました?急用ですか?」
「いえ。大した用事じゃ、ないんですけど」
ただ、ちゃんと帰れたか心配で電話した、とか……駒様に言うのもなんか……躊躇われる。
「あ……お戻りになられたようです。少々お待ちいただけますか」
「はい!」
良かったぁ。皇、無事に戻ったんだ。
しばらくすると、息を乱した皇が『どう致した?』と、電話に出た。
「何か……皇、怪しい人みたい」
ハァハァ言ってて……。
そう言って吹き出すと、皇は『あ?』と不機嫌な声をあげた。
『そなたから電話と聞き、また忘れ物でもしたのかと、走って参ったに!』
「またって何だよ?またって!違うよ」
『では何だ?』
「……っと……その……」
ちゃんと着いたか心配で……とか……言うのが恥ずかしい。
口籠ると、電話の向こうでハァハァ言わなくなった皇が、鼻で笑ったのがわかった。
「何だよ?」
『……無事、戻った』
うっ……心配してたの、バレバレじゃん!
「ぅん……」
恥ずっ!
『そなたがそのように余を案じておったとは……』
「べっ……別に!お前の車……特注だし、事故とかそういうの、あるわけないって言ってたし……サクヤヒメ様に守られてるんだから……何かあるわけないって、思ってたし」
それでも……心配、してたんだけど……。
『余を案ずるより、課題に取り組め』
「うん」
『……雨花』
「ん?」
『明日……占者殿に頼んで、サクヤヒメ様に、そなたの合格祈願をしていただこう』
「えっ?いいの?そんなことお願いして」
占者様って、鎧鏡一門の安泰なんかを祈願してるんじゃなかったの?
オレの合格祈願とか、そんなめちゃくちゃ個人的なことを占者様に祈ってもらったりなんかしちゃっていいの?
『あ?』
「めちゃくちゃ個人的なことじゃん。占者様って、もっとさ、こう……鎧鏡一門のためとか……そういう祈願をしてくれてるんじゃないの?」
『占者殿の祈願が鎧鏡一門のためのものであるなら、鎧鏡一門の一人である余の個人的な願いも祈っていただいても良かろう』
そういう乱暴な解釈でいいんだ?
でも……。
『どうした?』
「ううん。……ありがと」
オレの合格は、皇の個人的な願い……なんだ?
もうそれを聞いただけでオレ……頑張れる!
皇自身のことじゃなくて、オレの合格を願ってくれるとか……って……あれ?
「そう言えば皇さ、高校出たあとどうするって、聞いたことあったっけ?」
皇の進路って、オレ、聞いたことあったっけ?このまま神猛の大学部に進むんだっけ?あれ?
『東都を受けるつもりでおる』
「……はいい?!」
東都?!東都大?え?オレと一緒じゃん!
全然、受験勉強らしいことをしている姿を見た事がないから、そのまま神猛の大学部に進むんだと思ってた!
『東都で経営を学ぶつもりでおる』
「何だよ!もー!全然知らなかった!」
『何を憤っておる?そなたが聞かなかっただけであろう?そなたの余への興味の薄さがようわかる』
「はぁ?!」
『冗談だ』
っていうか、冗談でも本気でも……そんなこと言われちゃうと、返事に困るだろうが、バカ。
「皇、受験勉強してるの?」
『それなりにな』
「はあ」
出来る人は言うことが違うよねー。
でも……うわぁ。同じとこ受けるとか……うわぁ。何か……オレ、頑張る!
「んじゃ、切るね」
『急だな』
「お前が早く課題やれって言ったんじゃん」
『それにしても……』
だって……皇が東都を受けるなんて知ったら、オレのヤル気が湧きまくりなんだもん!
「皇?」
『ん?』
「あの……さ。頑張ろうね」
『……ああ』
そのあと、すぐ切ろうと思ったのに、結局、他愛のない話で長電話になっちゃって、電話を切ってから、ものすごい勢いで課題を終わらせた。
皇が東都に行くとか、オレの合格が、皇の願いとか聞いたら……だって……めちゃくちゃ頑張っちゃうじゃん!
もー!皇めー!早く言ってよ、もー!
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