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夏休み~積み重なる原因~①
7月29日 晴れ
今日は、皇が梅ちゃんへ渡る日です。
連日真夏日が続く中、オレは合宿所で勉強漬けの毎日を送っている。
納涼祭の翌日、皇の正式な渡りがあった日、皇が東都を受けると聞いてから、オレのヤル気はうなぎのぼりだからね。
皇は納涼祭の翌日以降も、誓様に渡った日と、誰にも渡る予定が入っていなかった日に、こっそりオレのところに来てくれた。
本当だったら次の皇の正式な渡りは7月31日の予定だから、31日まで会えないはずだったんだけど……。
そう思うと、塩紅くんと天戸井のところにはたくさん渡ってるし、駒様は仕事とはいえ毎日皇に会ってるからいいとして、ふっきーのところには行かなくていいのかな、とか……心配になったりして……。
ふっきーは、誓様と梅ちゃんのことを知らないみたいだから、誓様への渡りの日に、こっそり会うとか出来ないんだろうけど……ふっきーだって皇に会いたいだろうに、オレばっかり……って、罪悪感が湧いてくる。
でも……オレのところにこんな風に来てくれるってことは、ふっきーのところにも、なんだかんだ会いに行ってるのかもしれない、とも思ったり……。
そんな風に考えるのは、自分が罪悪感にさいなまれないための、都合のいい想像な気もするけど……。
皇はふっきーのところにも会いに行ってるだろうって考えることで、皇とこっそり会っていることに、罪悪感を持つのをやめた。
皇がわざわざ抜け出してでもオレに会いに来てくれることを、素直に……喜んでいたいから。
次回、オレへの正式な渡りがある31日は、皇がモナコに出発する前日だ。
渡りの順番はオレが一番最後だから、必然的に皇の渡りが中断する前日に、オレに渡ることになるんだなって気付いて、ちょっと得な気分になった。
だって、中断前の最後の渡り、とか、印象が強く残りそうだし……。
そんなことを考えながらニヤニヤしていたら、部屋の窓を外からコンコン叩く音が聞こえた。
えっ?皇?今日は梅ちゃんに渡ってる、はず。
梅ちゃんのところからも、こっそり抜けられるもんなの?
樺の一位さんの怖い顔が頭に浮かんだ。
急いでカーテンを開けると、やっぱり窓の外に皇がいた。
「暑いな」
皇は当然のように、窓からひらりと部屋に入って来た。
「皇?」
「ん?」
汗をかいている皇にタオルを渡すと、軽く額を押さえながら、オレを見下ろしてキスしてきた。
「ちょっ……ねー、今日、梅ちゃんに渡る日だよね?樺の丸から抜けて来たの?」
「そうだ。どこの屋敷にも抜け道がある」
「えっ?!そうなの?」
「梓の丸にもある」
「えっ?!」
知らなかった!
夜中オレが寝てる間、皇がこっそり誰かのところに行ったりも出来るって、こと?
……そんなの、やだ。
「何をふくれておる?」
「ふっ……くれてなんかない」
「ほう……もともとそのような顔であったか」
皇は、オレの頬を包んだ両手に力を入れた。
その瞬間、頬を潰されたオレの口から『ぶっ!』と空気が抜けていった。
「ふくれておったではないか」
「ぷはっ!」
自分の口から出て行った間抜けな音に、吹き出した。
オレのところに渡った日、皇が別の誰かのところに、こっそり抜け出して行くなんて、あるわけないって……信じてる。
皇がベッドに横になったから、オレは二人掛けのソファに座った。
明後日、オレへの正式な渡りがあるのに、今日も来てくれた。
モナコに行っちゃったら、それこそしばらく会えないけど……それでも、他の候補様よりオレは、皇に会いたいのに会えない日が、短くて済むんだ。
「何をいつまでもにやついておる?」
「は?……にやついてないし」
いや、多分、ニヤニヤしてた。
オレ、どうしてすぐ顔に出ちゃうんだろう。
はぁ……恥ずっ。
「何を考えておった?」
「何にも」
何を考えてたかなんて、本当のことは言えるわけないだろうが!
「申せ」
「何にも考えてないし、にやついてない!」
「隠しだていたすとは、何か後ろめたいことなのであろう?」
「違うよ!」
「では正直に申せ」
皇はベッドから飛び起きて、オレの手を引いてベッドに押し倒した。
「ちょっ……ホントに何も考えてない!」
「嘘を申すな。余が目の前におるというに……余に話せぬことでにやつくとは、許さぬ。申せ!」
「……」
お前が目の前にいるから、喜んでるんじゃん。そんなこと、恥ずかしくて言えるか!
「強情者め。口を割らせてやる」
これは……セクハラまがいのことをして、口を割らせようとするいつものパターンか?!
身を強張らせると、にやりと笑った皇が、オレのワキをさわさわと触った。
「……」
これって……もしかして、くすぐってる……つもり?なんでしょうか?
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