331 / 584
夏休み~積み重なる原因~②
「そなた、何も感じぬのか?」
信じられないというような顔をしてオレを見た皇は、さらにオレのワキをさわさわと触った。
くすぐってるつもり……なんだろうけど、何か……そうじゃない。くすぐったいツボは完全に外れている。
皇がこんなことするなんて、めちゃくちゃ意外!
そっちのほうに気が取られて、ぽかーんとしていると『むず痒くはないのか?そうか、腹か』と、皇は、今度はオレの脇腹をさわさわとさわり始めた。けどやっぱり、くすぐったくない。
「お前……くすぐるの下手くそだね」
「あ?」
「こうするんだよ!」
皇のワキをくすぐると、皇がビクリと体を震わせた。
「あははっ!くすぐったかった?」
「……」
悔しがってる!
皇の顔を見て吹き出すと、皇はもう一度オレをベッドに押し倒した。
「余が下手なのではない。そなたがおかしいのだ。手が駄目なら、こうしてくれる!」
皇は、オレの半袖シャツを肩までめくって、腕を掴んで持ち上げた。
何?!と思っていると、ワキに唇を付けて、軽く吸い付いた。
「ひゃっ……ちょっ……」
それは!くすぐるのとは、違うじゃん!
っていうか!ワキに口付けるとか!やだ!
逃げようとしても、覆いかぶさっている皇に、体を押さえつけられていて逃げられない。
「そうか。このほうがそなたには効くらしい」
「やだ!ひゃっ……うっ……それ、ふっ……ずるいよっ!」
「何とでも申せ。余の真の目的は、そなたを笑わせることではない。そなたの口を割らせることだ」
そうだった!
「や、だ!」
皇が何度もワキに唇を付けて、軽く吸い付いていく。
こんな……ちょっ……やばい!主に下半身がやばい!
「やだ!」
必死で身をよじって逃げようとしても、全然逃げられない。
「では申せ。何をにやついておった?」
「……」
「まだ足りぬか」
またワキを吸われた。
「ひゃあっ!」
オレ、ワキ弱かったっけ?ちょっと……もー!
でもだって、何を考えてにやついてたかって……モナコに行く前、お前が最後に渡るのがオレのところで喜んでたとか……言えないでしょ!絶対、無理!
「きょっ!今日の夕飯!……美味しかったなって思って……」
「……でたらめを申すな!」
「何でわかるんだよっ!」
「そなたが嘘を申す時の癖がある」
「嘘っ!?」
何?そんなの知らない!誰にもそんなこと、言われたことない。
「真だ。早う、口を割れ」
皇は、さらにワキに唇を付けた。
「ひゃうっ……あ……恥ずかしいからヤダ!言いたくない!」
そう言うと、皇は動きを止めてオレを見下ろした。
「……余のことか?」
「……」
「余がそなたをにやつかせたのか?」
何、嬉しそうな顔してんだよ!
恥ずかしくて両手で顔を隠すと、その手の甲に、ふわりと唇の当たる感触がした。
「雨花」
「……」
「……雨花」
オレの耳にキスした皇の視線と、顔を覆った手の隙間から覗いたオレの視線がぶつかった。
「そなたの照れる様は、扇情的だと言うたであろう。余を煽っておるのか」
「ちがっ……」
「もう十分だ」
「え?」
「もう十分……煽られた」
それから……この流れだし……その……止める理由も何もないので……シテ、しまいました。
オレが煽ったとか……オレが誘ったみたいに言うなよ!恥ずっ!
翌朝、勉強部屋に行こうと支度をしていると、塩紅くんがやって来た。
塩紅くんが部屋に呼びに来るのは、もうすでに日課みたいになっている。
以前塩紅くんに、皇の匂いがするって言われてから、皇がここに来たあとの消臭には、かなり気を使っていた。
皇がこっそり来てることがバレたら、本当に相当、まずい事態になりかねない。
塩紅くんも桐の一位さんも、何も言ってこないから、バレてはいないだろうけど……。
これからもバレないように、気をつけなくちゃ。
皇に会うのに、こんなコソコソしなきゃいけないなんて……。
ふっきーだけじゃなくて、塩紅くんに対しても罪悪感がわくけど、逆に正々堂々、皇に何度も渡ってもらえてる塩紅くんに対して、嫉妬する気持ちも……正直……ある。
「あれ?ばっつん、ここ蚊に刺されてるよ?」
塩紅くんは、支度をしているオレの後ろから、オレの腕をつんっと押した。
「え?」
蚊に刺されてる?痒くないけど……いつの間に?でもここ森の中だから、たまにやぶ蚊が入って来るからなぁ。
塩紅くんが指で押した腕の内側を確かめようと袖をめくって、壁にかかった鏡に腕を上げて映してみると、ワキから二の腕の内側にかけて、いくつも赤い斑点があった。
「っ?!」
夕べ、皇に吸われた痕だ!
驚いてシャツの袖をもとに戻したけど……。
塩紅くんに……見られた?
鏡越しに見えた塩紅くんの顔は、別段、変わりがないように見える。
「俺、先に行くから」
塩紅くんはそれだけ言って、部屋を出て行った。
「……」
見られて、ない……よね?
ともだちにシェアしよう!