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夏休み~積み重なる原因~④

「そなたへの土産は余だ」 「はぁ、まぁ、それはそれでもいいとして……皇?」 お土産についてはもう、勘違いしたままでも、帰って来てからどうにでもなるけど、オレの誕生日のことは、出発前に聞いておかないと。 「ん?」 「あのさ」 「何だ?」 「モナコ、さ。……途中で、こっちに戻って来たりして、いいの?」 「あ?」 帰って来なくていいとか、嘘はつけないからそう聞いた。 「オレの誕生日に、その……帰るって、言ってたけど……いいの?」 「あ?何を今更。ああ、そなた、またおかしな噂でも聞いたか?」 「そういうわけじゃなくて……」 噂を聞いたからじゃない。 塩紅くんに、家族水入らずの旅行だって言われて、オレもようやく気付いたからだ。 モナコ旅行は皇にとって、一年に一度だけの、家族水入らずの旅行なんだってこと。 そんなことに気付いちゃったら、オレにケーキを渡すってだけの理由で、途中で帰って来てもらっていいの?とか、思うじゃん。 お前がお館様に仕事を教わらなくなって、前みたいに会えなくなったこと、寂しいって思ってるの、知ってるし……。 「オレ、全然気付いてなかったんだけど……だって、一年に一回しか、家族水入らずの旅行なんて出来ないだろ?大殿様とも冨玖院様とも、その時しか会えないんだよね?だから……」 お前の都合とか状況とか全然考えないで、お前がケーキを持ってきてくれるって言ってくれたこと、ただ喜んでて……『ごめん』と謝ろうと口を開くと、皇は大きく息を吐いて、顔をしかめた。 「そなたの誕生日だからと、余が旅行の途中で帰って参るのはおかしいとでも、誰ぞに吹き込まれたか?」 「そういう……誰かに吹き込まれたとかじゃなくて……オレが、そう思ったんだよ」 「家族旅行なぞ、行こうと思えばいつでも行ける。大殿様と冨玖院様には、会おうと思えばいつでも会える。だが……そなたの18の誕生日は、次の8月8日、一日だけであろうが!」 「……」 どうしよう……。そんなこと言われたら……めちゃくちゃ嬉しくて……泣きそうじゃん。 泣くのを堪えて、への字に曲げた唇を、片眉を上げた皇が指でつまんで軽く上下させた。 「んんっ!」 「また不器量な顔をしおって。何故そなたが余の優先順位を勝手に決めるのだ」 「だって……」 皇にとってオレの誕生日が、年に一回の家族水入らずの旅行より、大事なことだなんて……思ってなかったし。 「あ?だって、何だ?」 「……本当に、いいの?」 皇の中で今度の8月8日は、何よりオレの誕生日が優先……とか、思っていいの? 「……そなたが望まぬのなら、戻って来ぬ」 そんな風に言うのに、皇はオレをギュッと抱きしめた。 「……」 何て……返事をしたらいいの?戻って来てって、言っていいの? 「そなた……余を待っておると、申したではないか。戻って来るななどと、申すでない」 皇……。 さらに強く抱きしめてきた皇を、オレも強く抱きしめた。 「ん。……待ってる」 「……雨花」 そのまま、すぐ隣に敷いてある布団に行く時間すら惜しくって、畳の上で皇と……何度も……何度も、交わった。 「雨花」 疲れ切って熟睡していたらしい。 名前を呼んだ皇が、オレの耳の穴に指を突っ込んでくるから、ビックリして飛び起きた。 「ぎゃあっ!なっ……何してっ……」 「行かねばならぬ」 皇にふわりとキスされて、怒ろうと思ってた気持ちがシュンと消えた。 「あ……うん」 もう……行っちゃうんだ。 今日の昼前には、皇はモナコに出発する。 「雨花」 「ん?」 「今年の余の誕生日を覚えておるか?」 「え?」 覚えてる、けど? 「そなたに、一番先に祝われた」 「え?……あ」 展示会の前日、新しい候補を選んでいいのかって、皇が聞きに来た時、日付が変わってすぐにオレ、皇に『誕生日おめでとう』って書いた手紙を渡したんだ。 そっか。そんなの全然気にしてなかったけど、オレ、一番最初に皇の誕生日を祝ってたんじゃん! うわ!何か、嬉しい。 「そなたからの文……誠、嬉しく思うたゆえ、真似をした」 「え?」 皇の字で『雨花』と、書かれている封筒を渡された。 「八月八日に開け」 オレの真似ってことは、この手紙、誕生日祝いのメッセージが書いてあるってこと? 「……ん」 「必ず八日に開くのだぞ?」 皇が念を押したところで、去年のやりとりを思い出した。 去年の誕生日の翌日、モナコに戻る飛行機に乗ってから読んでって渡した礼状を、皇は部屋を出てすぐに読んだんだ。 自分がそういうことをするから、オレも誕生日前にこの手紙を読むんじゃないかなんて、心配するんだろ。 「オレは誰かさんみたいに、約束破ってすぐに読んだりしないから」 そう言って皇を見上げると、睨まれてデコピンされた。 「ぃでっ!」

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