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夏休み~積み重なる原因~⑤
おでこをさすりながら皇を見上げると、意地悪そうに笑った顔が、ふっと近付いた。
目を閉じる間もなくキスされて、一気に顔が熱くなる。
「雨花」
「ん?」
「八日、そなたのあの冷蔵庫の中身を増やしに、戻って参る」
皇は嬉しそうに笑いながら、オレの頭をポンッと撫でて、立ち上がった。
オレの冷蔵庫の中身を増やすって……オレがまた、ケーキのプレートを食べないの前提か!今年は食べるって言ったのに。
……まぁ、食べられないとは思うけど。
「今年は食べるって言ったじゃん」
立ち上がった皇は、オレの話なんか聞いてないみたいに『このままいくと、いずれあの冷蔵庫では入りきらなくなるであろう』と、寝間着の着崩れを直しながら鼻で笑った。
「だから!今年はプレートも食べるってば!」
布団の上に正座したまま、口を尖らせてそう反論しても、さらに皇は『入りきらなくなれば、大きな冷蔵庫に買い替えてやろう』とか言いながら、帯を締め直している。
「オレの話を聞ーけー!って……えっ?!大きい冷蔵庫に買い替え?!買い替えって、あの冷蔵庫と別のを取り替えるってこと?」
「あ?」
あ。ようやくこっち向いた。
「駄目だよ、そんなの!あの冷蔵庫はずっと使うの!お前に一番最初にもらった物だし……って、あ!その前に消しゴムもらってるけど、あれは消耗品だからカウントなしね」
「何のカウントだ」
おかしそうに笑った皇は『では入りきらなくなった時に冷蔵庫を買い足してやろう』と、さらに笑いながら、オレの頭をポンッと撫でた。
「だから!食べるってば!」
オレの頭に置かれたままの皇の手を取って、オレも寝間着を直そうと立ち上がった。
「ああ、毎年冷蔵庫も共に贈れば良いのか」
オレの手を離した皇は、天気を確認するように縁側に出て、壁代をめくりながらまだそんなことを言っている。
「だーかーらっ!」
「あのプレートが、ケーキの中で一番旨いやもしれぬに食さぬとは……」
笑いながら部屋に戻って来た皇は、寝間着を直したオレを抱きしめた。
「だから!食べるって言ってんじゃん」
皇を睨み上げると、皇はふっと笑って、オレのおでこにキスをした。
「あ!もう行かないと遅れるよ?」
「ああ」
抱きしめていた皇の腕の力がふっと抜けたのと同時に、オレは皇の寝間着の襟を掴んだ。
「おっ……」
ふっと笑った皇の顔を見ていたら、無性に……キス……したくなって……掴んだ襟をぐっと引いて、唇に……キス、した。
「……いってらっしゃい」
目を丸くした皇が、無言のままオレを布団に押し倒した。
「ちょおおおおっ!遅れる!早く行け!」
皇を押しのけるようにぐっと肩を押すと、顔をしかめた皇が、大きく息を吸って、思い切りため息をついた。
「はぁ……」
「……」
ため息をつきながら布団から立ち上がった皇がオレを見下ろすから、オレは無言で皇に両手を差し出した。
しかめていた顔を緩めた皇は、差し出したオレの両手を掴んで『手のかかる奴め』と、オレを布団から引っ張り上げた。
「見送り、行くね」
「ああ」
本丸に戻る皇を玄関まで送りに出て行くと、側仕えさんたちも、ずらりと一緒に玄関に並んだ。
「若様、モナコ旅行、お気をつけていってらっしゃいませ」
いちいさんがそう声を掛けると、皇は『ああ』と返事をして、くるりとこちらに振り向いた。
「そちたち、余が留守の間、くれぐれも雨花を頼む」
「なっ……」
恥ずっ!またそういうこと言って……嬉しいけどさ。もー……恥ずかしいだろうが!
「はい。承知いたしました」
いちいさんが頭を下げると、他の側仕えさんたちも一斉に頭を下げて『若様いってらっしゃいませ』と、声を揃えた。
「雨花」
「ん?」
「八日後にな」
「……ん」
オレの頭をポンッと撫でて、皇は迎えの車に乗りこんだ。
皇の乗り込んだ車を見えなくなるまで見送って、部屋に戻ろうと振り向くと、嬉しそうにニヤニヤしている側仕えさんたちがこちらを見ていた。
「うっ……」
ものすごく恥ずかしいところを見られた気がして、カーッと顔を熱くすると、ことさら嬉しそうないちいさんが、にっこりしながら一歩オレに近付いた。
「さぁ、雨花様。若様のお見送りに行く準備をなさいませんと」
「あ……はい!」
オレはその場から逃げるように、部屋に戻った。
はぁ……恥ずっ!
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