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夏休み~結果~①
八月八日に開くと皇に約束した手紙を膝に置いて、デジタル時計の数字がカチカチと進んでいくのを、ただ眺めていた。
表示が一際大きな音を立てながら、8月8日0:00に変わった瞬間、携帯電話からメールの着信音が立て続けに鳴った。
毎年、8日の0時に、何人かの友人から誕生日おめでとうメールやメッセージが届く。
この着信音は、誕生日祝いのメッセージだろうと思いながらオレは、携帯を確認するより前に、皇からもらった手紙の封を丁寧に開けた。
『雨花 そなたの誕生日を心より祝う。すぐ戻る。待っておれ 皇』
「皇……」
オレが勝手にそうしたんだけど、皇……お前が一番に、オレのことお祝いしてくれたよ?
「ありがとう」
待ってる。すっごい……待ってるから。
手紙を綺麗に戻してから、携帯電話を確認した。
やっぱり誕生日を祝うメッセージが何通も入っている。
その全てに、ありがとうと返事を送ってから、オレは久しぶりに戻って来た梓の丸の自分のベッドで目を閉じた。
皇……今日のいつくらいに、帰って来るんだろう?もう、モナコは出発したかな?
一週間、会ってない。
こんな日に誕生日なんて、オレって間が悪い……とか思ってたけど、今日が誕生日じゃなかったら、さらに一週間、皇には会えなかったんだ。
そう思うと、今日が誕生日で本当に良かった。
柴牧の母様……本当にありがとうございます。
あともう何時間もせずに皇に会える。
そう思うと……胸がキュウキュウ苦しくなって、目をつぶっても、しばらく興奮して眠れなかった。
「雨花様、お誕生日おめでとうございます。気持ちのいいお天気ですよ」
朝、いつものようにオレを起こしに来てくれたいちいさんが、にっこり笑いながらそう言ってカーテンを引いてくれた。
窓から見えた空は、朝から真っ青な快晴だ。
これなら皇が乗っている飛行機も、去年みたいに気流が乱れて遅れる……なんてことはないんじゃない?
「ありがとうございます、いちいさん」
「先程駒様よりご連絡いただきました。若様は午前中にはご帰国予定だそうです」
「えっ!?」
ついベッドから飛び起きると、いちいさんが『午前中と言いましても、10時くらいではないかということでしたので、まだごゆっくりしていらしても大丈夫ですよ?』と、ニッコリ笑った。
皇が帰ってくるなんて聞いて、飛び起きたりした自分がめちゃくちゃ恥ずっ!
「ああ、でもやはり、お早くお仕度していただいたほうがいいかもしれませんね」
いちいさんは窓の外をふっと見て、そう言った。
「え?」
「早朝より、雨花様への誕生日祝いの品が、ひっきりなしに運ばれてきております。中身を確認するだけでも、丸1日はゆうにかかってしまうかもしれません」
嬉しそうに笑いながら、いちいさんは『十位に急ぐように言って参りましょう』と、部屋を出て行った。
皇……10時くらいにはこっちに来るんだ。
あと何時間?ドキドキする。こんなドキドキするのは、一週間会ってないからかな?でも今までだってそれくらい会わなかったことはあるのに。
でも今回は、この一週間が、ものすごく……長く感じてた。
「……」
ようやく皇に会えるって、ただただ喜んでいられたらいいのに……オレは嬉しい気持ちの奥にある、モヤモヤしたものを無視出来ないでいる。
昨日、塩紅くんの噂を聞いてから、嫌な胸騒ぎがずっと続いていた。
塩紅くんの噂は、オレが悩むことじゃないって、あげはは言ってくれたけど……。
噂のことだけじゃなくて、塩紅くんの体調も気になっていた。
塩紅くんの誕生日に風邪をひいた自分が、嫌でも頭に浮かんでくる。
あの日皇は、誕生日の塩紅くんのところより、風邪をひいたオレのところに長くいてくれた……と、思う。
皇はあの時、塩紅くんのところに行けって言ったオレに、逆の立場なら具合の悪い人のところに行けって言うだろうって……言った。
塩紅くんの体調が悪いようなら……今日皇は、塩紅くんのところに……行っちゃう……かも。
「……」
塩紅くんが体調を崩してるなら……オレだって、そうしてもらったんだし……きっと自分から、塩紅くんのところに行ってあげなよって、皇を送ってあげられると、思う。
「……」
夕べとは違う痛みで、胸がギュウギュウ締め付けられた。
塩紅くんのとこに行ってあげなよって、皇を送ってあげられる。
きっと普通にそう出来る。
だけど……。
「雨花様、お着替えお持ち致しました」
とおみさんが、たくさんの服を持って来てくれた。
「ありがとうございます!」
暗い顔をしてたら駄目だ。
どうなるかわからないのに、先回りして落ち込むのはやめよう。
そう思っても……塩紅くんのところに行く、皇の背中が頭に浮かんだ。
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