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夏休み~結果~③

「どうぞ、雨花様」 いちいさんは、大広間のドアを重そうに開いた。 と、同時に鳴らされるクラッカーの音と『雨花様おめでとうございます!』という、たくさんの声! 「うわぁ……ありがとうございますっ!」 火薬の匂いを嗅ぎながら大広間に入って、皇の姿を探した。 ……いない。 やっぱり、いちいさんのサプライズじゃなかったんだ。 「若様もすぐいらっしゃるでしょう。先に私共からお祝いさせていただきたいと存じます」 いちいさんはそう言って、オレを大広間の一番奥の席に案内してくれた。 側仕えさんたちの色々な余興を見ているうちに、11時も過ぎてしまった。 そろそろ、みんなお腹も空いてくる時間だよね。 皇が来るのが10時くらいの予定だったからだと思うけど、テーブルにはまだ、飲み物しか乗っていなかった。 「皇、まだみたいですし、先にお料理いただきませんか?」 並んで座っているいちいさんとふたみさんにそう言うと、二人は顔を見合わせた。 「若様がどれくらいにいらっしゃれるか、今一度駒様にお伺いしてみましょう。少々お待ちください」 いちいさんはそう言って、部屋を出て行った。 モナコからの長い移動なんだし、予定より遅れることもあるよね。 そうは思うのに……ずっとざわざわ続いている胸騒ぎが、どんどん怖い想像を頭に浮かばせる。 こんなに遅いのは、もしかして、皇の乗ってる飛行機に何かあったんじゃ……。 皇自身に、何かあったんじゃ……。 サクヤヒメ様に護られている皇に、”何か”なんてあるわけない。皇がそう言ってたじゃん。何かあるとしたら、候補であるオレのほうだって、いつか言ってたじゃん。 大丈夫だよ。皇は大丈夫。 だけど……いちいさんは、なかなか戻って来ない。 「皇に、何かあったんじゃ……」 ついそう口にしてしまった時、いちいさんが部屋に戻って来た。 「いちいさん!皇は?」 「若様は、こちらにいらっしゃるのが遅くなるそうです」 「皇、無事なんですよね?」 「もちろんでございます。すでに日本には戻っていらっしゃるそうですが……急用が入ったとのことで……」 「はぁ……だったらいいんです。無事なら全然……」 良かったぁ……。 「皇が遅くなるなら、先に始めませんか?あ!でも、ここのいさんもいないですよね?」 ぼたんは戻ってきているけど、ここのいさんは今朝から顔を見ていない。 「九位様は今日、三の丸でお仕事だそうです。あとで合流するからとおっしゃってましたよ?」 やつみさんはそう言って『九位様のことはお気になさらなくていいですよ』と、笑った。 ここのいさんは、うちの側仕えさんたちのお目付け役であり、三の丸の看護師さんでもある。 どっちかっていうと、三の丸の看護師さんが本業ってことになるのかな?こっちにいるよりも、三の丸にいることのほうが長いみたいだし。 「あー!八位様がそうおっしゃってたって、九位様がいらしたら言っちゃおー!」 「あげは!……一位様がおっしゃってたことにしておいて?」 「あははっ!」 皇は、無事だ。日本に帰って来てるっていうんだから。 急用って、何だろう?やっぱり……塩紅くん、かな? また落ち込みそうになって、頭に浮かんだ疑問を無理矢理閉じ込めた。 皇が無事なんだから!とりあえずそれで良し! 「じゃあ、先に始めちゃいましょうか?」 「若様、またヒーローみたいに現れるんじゃないですか?」 あげはが含み笑いをしながらオレを見た。 「え?」 「ヒーローって、なんでいっつもギリギリに来るんですか?若様も、去年の雨花様の誕生日とか、新嘗祭の練り歩きとか、もう駄目だー!って時に、かっこよく参上なさいましたよね?」 「あははっ!そうだったね」 そうだよね。 皇、約束の時間より早く来ることも多いけど、遅いよ!ってことも多かったっけ。 ……帰国してて”急用”ってことは、塩紅くんのところに行ってる可能性が高い気がする。 それならそうだって言ってくれたら、皇の身に何かあったんじゃないかなんて、こんなに心配しないのに。 でも……それがどんな急用だとしても、ケーキを持って、オレのところに来てくれるよね?待ってろって、言ったもん。 時計が正午を知らせてすぐ、大広間のドアがノックされた。 皇?! そう思ってすぐ、皇がドアをノックするわけないとガッカリした。 広間に入って来たのが駒様だとわかると、その後ろに皇がいるかも!と、また期待したけど……大きな箱を持った駒様の後ろからは、誰も入って来なかった。 「雨花様、お誕生日おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「若様は本日急用が入り、これだけは届けるよう、ケーキをお預かりしました」 「えっ?」 それって……今日、皇は来ないって……こと?

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