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夏休み~結果~⑥
ドキドキしながら病室をそっと覗いていると『塩紅様!今はどうぞお鎮まりください!』と、遠くからそんな声が聞こえてきた。
塩紅様?え?塩紅くん?塩紅くんが、どうしたの?
何なんだろう?と思っていると、勢いよく病室のドアが横に開かれ、気難しい顔をしたおじさんが病室に入って来た。
……誰?見た事……あったかな?
「塩紅様、どうか今は……」
あれ、桐の一位さん?
気難しい顔をしたおじさんのすぐ後ろから病室に入って来たのは、困った顔をした桐の一位さんだ。
塩紅様って、今、桐の一位さんはこのおじさんのことを呼んだんだよね?
もしかしてこのおじさん……塩紅くんのお父さん?
桐の一位さんがいて、塩紅くんのお父さんが来たってことは……やっぱりそのベッドに寝てるのは、塩紅くん?
塩紅くんのお父さんらしい人は、ベッドの周りにいる人を押しのけてベッド脇に立った。
ベッド脇に立っていた人たちがざわざわと動き出すと、ベッドに寝ている人の顔がよくやく見えた。
塩紅くんだ。
やっぱり塩紅くんだったんだ。皇の急用って。
塩紅くんは、ベッドの上で青白い顔をして目を閉じている。
塩紅くん……どうしたんだろう?普通に夏バテとか、夏風邪くらいで大老様まで呼ぶ?
……塩紅くんは特別……とか?
皇が、オレのケーキを放ってこっちに来てるんだ。それくらい……塩紅くんは皇にとって、大切な人……とか……。
「……」
そうなら……今日は何よりオレの誕生日が優先なんて……言わないで欲しかった。
オレ、すぐ期待しちゃうのに……。
でも……そっか。そうだ。皇、オレの誕生日が”何より”優先、なんて、一言も言ってなかったじゃん。
家族旅行より大殿様たちに会うより優先とは言ってくれたけど……オレの誕生日は、塩紅くんのお見舞いよりは優先度低いってこと、なんだ。
一週間ぶりに皇の姿を見られて、胸が苦しいくらい、嬉しい。
でも、だからこそ、オレより塩紅くんのほうが大事なんだっていう現実に、その場に立っているのがやっとなくらい……体が震えた。
その場にへたり込みそうになった時、ベッドで寝ている塩紅くんを見下ろしていた塩紅くんのお父さんらしき人は『起きろ!』と、大きな声を上げた。
えっ?塩紅くん、具合が悪いんじゃ……。
「雪佳 !」
塩紅くんを”雪佳”って呼ぶってことは、あの人、やっぱり塩紅くんのお父さんだよね?
塩紅くんのお父さんは、目をつぶっている塩紅くんの肩をガクガクと揺らした。
「塩紅様!いけません!晴れ様は未だ意識を戻していらっしゃいません!安静にと先生よりご指示が……」
「検査結果はすでに聞いています!何の異常も見当たらない、健康体だ。意識を失ったのは、おおかた、自分で切った傷からの出血を見たため……そんな理由でしょう。お恥ずかしい話です。……起きるんだ!雪佳!」
自分で……切った、傷?って、言った?
……どういう、こと?
状況が飲み込めない。
塩紅くんのお父さんは、何度か塩紅くんの肩を揺らしたあと、塩紅くんの頬を平手打ちした。
うわっ!
「塩紅様!」
「起きろ!起きて皆様にお詫びを!若様にお詫びをするんだ!」
塩紅くんのお父さんがもう一度振り上げた手を、駒様が掴んで止めた。
「塩紅様、なりません。晴れ様は、若様の奥方様候補ですよ」
「お離しください、駒様!医者の息子でありながら、自殺未遂を起こすなど……」
じさつ……みす、い?
「嘆かわしい!親として……若様に、何とお詫びしてよいか……」
駒様が掴んでいた手を離すと、塩紅くんのお父さんは、皇に深々と頭を下げた。
「詫びるのは……余だ」
「若様……」
「晴れは余の嫁候補。誰より余が守らねばならぬ存在であるに……このようなことになるまで、晴れの闇に気付かずおった。……すまぬ」
皇は椅子から立ち上がって、塩紅君のお父さんに頭を下げた。
「若様っ!おやめください!頭をお上げくださいっ!」
塩紅くんのお父さんが、慌てて皇を止めようと声を上げると、ベッドが軋む音と共に、塩紅くんがゆらりと上半身を起こした。
「晴れ様っ!」
「晴れ様が意識をお戻しになられた!」
桐の一位さんが塩紅くんに駆け寄ると、塩紅君は桐の一位さんを手で制した。
「今更、候補扱いしたって遅いんだよ」
塩紅くんは、さっきお父さんに叩かれた左頬を手で押さえ、項垂れながらそう言った。
左手首に真っ白い包帯が巻かれているのが見えた。
塩紅くん……手首……切った、の?
……どう、して?
「お前……何を……」
塩紅くんのお父さんがそう声を掛けると、塩紅くんはベッド脇に立つ皇をキッと睨んだ。
「今更候補扱いしたって遅いんだよ!こうでもしなきゃ俺のこと……見もしなかったくせに!」
手首の包帯を見せびらかすように、塩紅くんは皇に向けて左手を伸ばした。
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