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夏休み〜母と母〜②
母様は、ふうっとため息を吐いた。
「自分のせいって言うけど、あなた、晴れ様を傷付けるつもりだったの?」
「違います!」
そんな風に思ったことなんか、一度もない!
「じゃあ、あっくんの何が悪いのよ!」
「だってオレ……他の候補様たちのこととか、全然考えてなかったから」
「なんであなたが他の候補様たちのことを考えなきゃいけないのよ?ただ若様に会いたかったってだけでしょ!」
「……」
そう、だけど……皇に会いたいからって、規則を破って皇に会ったり、他の候補様みたいに、皇のこと早く本丸に帰すとか、オレはそんなこと全然出来なくて……オレのそんな行動が塩紅くんを傷付けて、こんなことになったんじゃん!
「若様のことが好きなら、会いたいのは当たり前じゃない!それの何が悪いのよ!なんでもかんでもあっくんのせいにして!あっくんのこと悪く言わないで!……好きなのよね?若様のこと」
「……」
「何よ?若様を好きになったこと、後悔してるの?」
「違います!」
後悔なんかしてない!
「だったら、胸を張ってなさい!」
母様はオレの両肩を掴んで、グッと開かせた。
「考えてもみなさいよ。若様のほうがどれだけ辛いことか。本当にあなたのせいだとしたら、若様はあなたのために矢面に立って、あなたを守ろうとしてくださってるってことよ?」
「だって皇は、自分のせいだと思ってるから……」
「確かに私にもそうおっしゃってた。でもそうなら、あなたが一番わかるでしょ?」
「え?」
「あなたも若様も、晴れ様のしたことを自分のせいだと思ってるってことよね?だったら、自分のせいだと思ってる者同士、あなたが一番若様の気持ちに寄り添ってあげられるんじゃないの?」
「……」
「自分のこと責めてる場合じゃないでしょう?そんなことしてるから、大事なことを見失うのよ。あなた、大事な人を見つけたんでしょう?」
オレが大事なのは……皇だ。
それどころじゃないのに、母様をここに呼んでくれるくらい、オレのこと、大事にしてくれてる皇のこと、オレだって……大事にしたい。
「……うん」
「もー!ホントあっくん、怖がりなんだから。怖がって大切なことを忘れるんじゃないわよ。大事なものは何としてでも守れって言ってるでしょ!」
「……はい」
母様は、そこでようやくニッコリ笑った。
「若様大丈夫かしら?って思ってたけど、大丈夫ね。あなたがついてるんだから」
「母様……」
オレのこと、信じてくれてるんだ。
「あっくんが自分を責めるのをママが止められないみたいに、晴れ様の気持ちは、あなたや若様ごときが無理矢理動かせるものじゃないのよ?神様じゃないんだから」
「え……」
「晴れ様が今回したことは、あなたたちが無理矢理させたんじゃないってこと。あっくんも若様も、晴れ様を傷付けたくて動いてたわけじゃないでしょう?それでもあなたが悪いって言うなら、ママこのまま晴れ様のところに行って土下座してくる!」
「やめてくださいっ!」
母様を止めると、ふふっと笑った。
「さ、いつまでも自分のせいだなんてグズグズ悩んでるんじゃありませんよ。あなたそれでも柴牧家の……」
そこまで言った母様は、ハッとして言葉を止めた。
「違うわね。……鎧鏡家の奥方様候補が、いつまでもグズグズ悩んでるんじゃありません!」
「……はい!」
母様は『いい返事だわぁ』と笑って、お茶をすすった。
「さて。ママは帰りますよ。あなたが見つけた大事な人を守ってあげて」
そう言ってカバンを手にしようとした母様に、大事なことを言い忘れていたことを思い出した。
「母様!」
「ん?」
「オレのこと、産んでくれて……本当にありがとう」
本当に心からお礼を言えたの、初めてかもしれない。
母様は『うん』と、笑って、オレの腕をパンパン叩いた。
「あなた、本当に生まれて来て良かったわね。……お誕生日、おめでとう」
「えっ?!」
母様に、誕生日おめでとうなんて……初めて言われた。
「何よ?……あっ!そうそう!人生って都合良く出来てるんですって。何かで読んだの。幸せになるために必要なものは、生まれた時からみんなちゃんと持ってるって。だから、あっくんも若様も、それから晴れ様も、みんな大丈夫よ」
塩紅くんも、大丈夫……。
「そうそう!それから、あなた心配するとすぐシモにくるんだから、あんまり心配するんじゃないわよ?小さい頃から何か心配事があると、トイレが近くなって……」
「わっ!わかりました!」
母様は『ホントいい返事。反抗期かと思って心配したけど、ママ安心したわ!』と、笑いながら去って行った。
相変わらずだなぁ、柴牧の母様。
「……うん」
母様、オレ、忘れません。一番大事なこと。
オレは、柴牧家の男子たるもの、大事な人を守れる男になれって、育ててもらったんだ。
オレ……皇を守ります!
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