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夏休み〜理由〜⑥
「そなたは、強い。今回の件で思い知った。余は、そなたの強さに追いつきたいと思うたゆえ、進むと決めたのだ」
「え?」
何……それ?
「そなたが先に進めば、また余はさらに急いで、先に進まねばならぬではないか」
皇は、こつんとオレの頭に頭をぶつけた。
「先に進むなとは言わぬ。だが……ゆっくり進め。余を、置いていくでない」
何だよ、それ!泣きそうじゃんか!
「……バカ」
オレからしたら、お前の背中ばっかり見てるつもりでいたのに……皇も、オレのこと追いかけようとしてくれてたってこと?
「余は……そなたを待たせてばかりだ」
オレは、ふるふると首を横に振った。
「すぐ参るゆえ……待っておれ」
お前がオレに向かってるって言うなら、待ってるよ。ずっと待ってる。
返事をすると泣きそうで、オレはただ、小さく頷いた。
「いつかそなたは申したであろう?余は、そなたの自慢だと。余は……そなたの自慢であり続けたい。そのために……強くなる」
バカ!そんなの……。
オレを強く抱きしめた皇の腕を、強く掴んだ。
「今でも十分……自慢だよ!バカ!」
びっくりした顔をした皇は、すぐに『そうか』と、眉を下げて笑った。
「そなたも……余の自慢だ」
「っ?!」
嘘……。
その言葉に、今にも溢れそうだった涙が、一気に溢れた。
「どう致した?」
「だ……って……」
何だよ……バカ。どうしてそんなこと、今言うんだよ。
そうなれたらいいなって、ずっと思ってた。皇の自慢の存在になりたいって……。
オレはそれから全然変わってないのに、今、そんなこと言われたら……嬉し過ぎて……どうしたらいいのか、わかんないじゃん。
皇は、オレの涙を拭きながら、唇を重ねた。
「ふっ……」
本当にオレ……お前の自慢、なの?
すぐに唇を割って入ってきた皇の舌の感触に、背筋がゾクゾクする。
そういえば……皇がモナコから帰って来たあと、キスも……してなかった。めちゃくちゃ久しぶりに、皇と……キス、してる。
そう思ったら、またどうしようもない罪悪感に、飲まれそうになった。
オレ……こんなに幸せでいいのかなって……。
塩紅くんの不幸の上に、オレの幸せがあるみたいな気がして……。
「……」
「ん?」
「ううん……」
でも、そんな風に思うのは、塩紅くんに失礼だと思った。
塩紅くんが不幸かどうかなんて、オレが勝手に決められることじゃない。
塩紅くんに罪悪感を持つのは、塩紅くんに失礼だ。
「気分が優れぬか?」
皇は、心配そうにオレを見下ろした。
「……」
今、オレが勝手に生んだ罪悪感で皇を拒んだら、きっと後悔する。
オレを心配そうに見下ろしている、皇の首にしがみついた。
皇はオレだけのものじゃない。だからオレが独り占めしたら、誰かが傷付く。
だけど、それはオレだっておんなじだ。皇が誰かのものになったら、オレ……もう家臣でもいられない。
だから、誰かを傷付けても、皇のそばにいたいって、思ってた。
塩紅くんが傷付いた今……そう望むことがどれだけ怖いことか……身に沁みてわかった。
だけどそれでも……変えられないよ。
皇と一緒にいたいって望むことが、どれだけ怖いことだとしても……もう一回、強く願うよ。
お前のそばに、いたいんだ。
「どうかしたか?」
オレは大きく首を横に振った。
もう罪悪感なんて、持つのはやめる。
「久しぶり、だったから……」
「あ?」
「久しぶりに……キス……とか、したから……」
「あ?久しぶり?……ああ、そなたは覚えておらぬか」
「え?」
「久しぶりではない。そなたと共寝をしておった際、散々した」
「はあっ?!」
そう言えば、オレは一度寝ると、何をしようと起きない……とか、言ってた。
オレが寝てる間に何してんだよ?って思ってたけど……キスとか、してたの?
「雨花……今宵、そなたに渡る」
「……ん」
皇が、オレの手をギュッと握った。
オレも、皇の手を、強く握り返した。
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