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夏休み〜ラスト〜
和室に入った時、外はまだ明るかった。
壁代を下げることもせず、明るいままの部屋で、皇に、体を開いた。
いつもは明るいところでそんなこと……恥ずかしくて仕方ないけど、今日はオレが、皇を見ていたかったんだ。
着物を脱いだ皇の腕は、モナコに出発した日に比べて、明らかに肌が焼けていた。
「皇……焼けた」
そう言いながら、皇の腕にそっと触れた。
「ああ、モナコ焼けだ。お館様に、ゴルフやらテニスやら外に連れ出された。……今頃気付いたか?」
皇がモナコから帰って来てから、何日経つ?皇がこんなに日焼けしていたことに、オレは今まで気付かずにいた。
「……見えてなかった」
ビックリだよ。そんな皇の変化にも気付かなかったなんて……。
皇が帰ってきてからのオレ、どれだけ余裕がなかったんだろう。
「ん?」
「ううん」
ようやく気付けた皇の日焼けした肌を、もうしばらく見ていたかったけど、皇と視線が重なって……目を閉じた。
唇に、柔らかく触れる、優しい感触……。
「そなたは……髪が伸びたな」
オレの髪にキスをして、皇は、唇でオレを確認するかのように、色々なところにキスをしながら、顔を下げていった。
「ふっ、あ……」
皇と肌を重ねるのは、本当に久しぶりで……。ドキドキするけど、それより……泣きたい気持ちが湧いてきた。
今日、色んなことがありすぎて……今日皇と、こんなことになっていいのか、怖くなる。だから、今日こうしなきゃいけない強い理由を探そうとして……やめた。
今、皇はオレを望んでくれてる、よね?オレも……皇と……したい。
皇と体を重ねる理由は、それだけで、十分だから。
「皇……」
「ん?」
「皇」
「ああ」
皇の、優しい返事に、涙が出た。
「泣くな」
「ん……」
「どう致した?」
「ううん」
「そなたの恐れを、全て拭いたい」
皇は、オレの目尻にふわりとキスをした。
「怖いんじゃ、なくて……」
「ん?」
「皇が……優しい、から」
止まっていたキスが、激しく再開されて、どんどん暗くなっていく部屋の中、汗だくになるほど、体を重ねた。
夕飯も食べずに、疲れ果てて寝ていたらしい。胸の上の重みに、ふと目を覚ますと、部屋の中は真っ暗になっていた。
皇はオレを包み込むように抱きしめたまま、ぐっすり寝ていた。
皇の柔らかい寝息が、おでこに当たってくすぐったい。
胸の上に置かれた皇の腕を、ほんの少しどかしても、皇は微動だにせず眠ったままだ。
ここまで熟睡してる皇って、ちょっと珍しい。
「……」
そっと皇の唇に触れると、皇は『ん』と、小さく動いた。
……可愛い!何こいつ。
無性に抱きしめたくなって、皇の腕から逃れて、皇を胸に抱きしめた。
オレ……お前の隣に立って、恥ずかしくない候補になるからね?
こんな、候補の自覚もないオレのこと、自慢だって言ってくれて……ありがとう。
ありがと、皇。
「好き、だよ」
口から、つい、こぼれ出た。
お前、いつもオレを待たせてばかりだって言ってたけど……今は、ずっとお前を待っていたい。待っているのは辛いって思ってた時もあったけど……毎日お前が帰って来る場所でいたいよ、皇。
「好きだよ」
もし今皇が起きたら、目を見て『好き』だって、言える気がする。
「皇……」
「……」
起きる気配のない皇のおでこに、キスをした。
「こんな時は、起きないんだから……」
皇を胸に抱きしめたまま、オレはもう一度目を閉じた。
八月最終週、新しい候補に多く渡る規則は廃止され、皇の渡りが再開された。
夏休み最後の日、皇はオレのところに渡ってきた。
いつの間にうちの側仕えさんたちと打ち合わせをしたのか、突然オレの誕生日パーティーのやり直しをしてくれた。
パーティーが終わった夜、忘れられない夏休みが終わった……なんて、寝ている皇の隣で、感傷に浸っていたんだけど……この時すでに、オレの周りで、色々と大変なことが始まっていたんだ。
その事実を、オレが知るまであと数時間……。
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