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楽しい2学期はーじまーるよー③

いやいや、ついさっき!ついさっき、皇が始業式に出てるの見てるし。この短い間にそんな破廉恥極まりないこと、あの皇に出来るわけない。 夕べだって、もう駄目って言ってるのに、ずっと……って……いや、ふっきーとはもしかしたらサクサク出来る、とか……?そんな!さっきまでオレと一緒にいたのに、そんなこと……するわけ……あ!でも!今日が休みなら抱き倒してた、とか、さっきそんなこと言ってた!まさか皇、それでふっきーのこと……? オレがグルグルしていると、ふっきーが『大丈夫?雨花ちゃん?』と、笑った。 「あ、うん。ごめん、大丈夫」 「ふっきー、何で濡れたの?」 サクラ!それ聞いちゃ駄目っ! いや、オレも聞きたい!けど、聞きたくない! 「あー……トイレに入ってたら、上から水がザバーってね」 「えっ?」 上から水がザバー? ふっきーは手振りを交えて楽しそうに話してる、けど……何があったの? 濡れて制服を着替えることになったっていうのに、ふっきーはいつもよりあきらかに何割増しかでウキウキしている。 でも、ふっきーのジャージに、皇は関係なかったんだ。ちょっと、安心した。 「またスプリンクラーの故障かな?前にもあったんだよね?サクラ」 今年のお正月のボヤ騒ぎの時、スプリンクラーが上手く作動しなかったって、田頭が言っていた気がする。 「ああ、新年会の時ね?そうそう。そうだった」 サクラが新年会の時のボヤ騒ぎの話をし始めると、すぐにふっきーは『ううん。スプリンクラーじゃないよ』と、にっこり笑った。 スプリンクラーの故障じゃないのに、トイレの上から水がザバーって……どういう状況? 思わずサクラと二人で顔を見合わせると、ふっきーは『夏休みに入ったからちょっと落ち着いちゃうかなって思ってたんだけどね』と、顎に手を置いきながらそう言った。 「……何が?」 素朴な疑問だ。何が落ち着くの? 「一学期の終わり頃からかな?たまーに、こういうのあったんだよね」 「え?」 一学期の終わり頃から、持ち物がなくなったり壊されたり、教科書にいたずら書きされたりおかしな噂を囁かれたりしていたのだと、ふっきーはどこか嬉しそうに話した。 そういえば、ふっきーがなんちゃらオリンピックに行くことが決まったあと、ふっきーは先生のお気に入りだからどうたらこうたらっていう、訳のわからないふっきーの噂を、オレも聞いたことがあった! 「それって……嫌がらせ?」 サクラが顔をしかめてそう呟くと、ふっきーは『どうだろうね』と、笑った。 「ちょっとふっきー!笑ってる場合じゃないよ!どうしてもっと早く言ってくれないの!」 サクラは憤慨している。オレも全く同じ気持ちだけど……それより……そのこと、皇は知ってるの? 「誰だよ!そんなことするやつ!僕、そういう卑怯な真似するやつ、ほんっと嫌い!」 サクラって案外、正義感とか仲間意識とか強いから。 「ちょっときみやすに言って、生徒会でも動くから!」 「あ、サクラ。それはちょっと待って」 ふっきーは、田頭のところに行こうとしているサクラを止めた。 「本当に嫌がらせかどうか、もう少し泳がせて知りたいんだ。嫌がらせなら確実にしっぽを掴んで、先生に報告するつもり。今騒がれると、犯人が分からずじまいでうやむやになる可能性があるから、二人とも知らんぷりしてて?ね?」 嫌がらせされてるかもしれないっていうのに、ふっきーはどう見ても楽しそうだ。 それを聞いたサクラは『大丈夫なの?』と、顔をしかめた。 「大丈夫だよ」 ふっきーは鎧鏡家の奥方様候補だ。 本当に大変なことになんて、なるわけない。そんなの、鎧鏡一門が黙ってないよ。 だってこれがもしオレだったら、まずそんな事実を知った時点で、絶対いちいさんが学校に乗り込んで来てくれちゃうと思う。 あ、でもその前に誓様が止めてくれるか……って……そうだよ! そんな前から嫌がらせが続いてるなんて……ふっきーについてる忍びさんは動いてないの? ……もしかすると、オレが先輩に襲われそうになった時、誓様が出てこられなかったみたいに、ふっきーに絶対姿を見せたら駄目とか、言われてるのかも。 ホームルームが始まる時間になってしまったので、話はそこまでで教室に入ったけど……オレはホームルームが終わってすぐ、ふっきーを生徒会室棟にある小会議室に引っ張っていった。 「ふっきー、嫌がらせされてるかもしれないって、皇には話したの?」 「え?ううん。雨花ちゃんも黙っておいてね?」 「どうして?!」 皇に話せば、何もかもすぐに解決しそうなもんなのに。 いや、ふっきー自身が話さないとしても、誰かが皇に報告していそうなのに……。 オレが本多先輩に襲われたのが、バレバレだったみたいに。 「さっき言ったでしょ?自分で犯人の証拠を確実に掴んで、白日の下に晒すためだよ」 ふっきーはやっぱりふっきーらしからぬウキウキっぷりで、にっこり笑った。 もしかして、ふっきーについてる忍びさんは、ふっきーが自分で解決したいって思ってるのも知ってて、あえて皇に黙ってる……とか?なのかな? もうそれしか、皇に伝わっていない理由がわからない。 「でも、危ないよ」 高遠先生が言ってた話が頭に浮かんでいた。 母様が候補の時、命を狙われてたって話だ。 ふっきーに嫌がらせして得になるのなんて……。 すぐに、ふっきーを憎々しげに睨んでた天戸井の顔が浮かんできて、頭を振った。 容易に人を疑ったらいけないとは思ったから。だけど……天戸井以外、ふっきーに嫌がらせをしそうな人なんて、思いつかない。 天戸井がふっきーに嫌がらせをして、何の得になるのかはわからないけど……。 自分の成績の順位を守るために、ふっきーのメンタルに揺さぶりをかけてる……とか? ……それは考えすぎだよね。 もしそうだとしたら、まんまと失敗だけどね。だって目の前のふっきーは、ぜんっぜん堪えてなさそうだもん。 「心配してくれてありがとう、雨花ちゃん。でも僕には目的があるから大丈夫だよ。次の嫌がらせが早く起きないかなって、ちょっと楽しみなくらい」 嫌がらせされるのが楽しみって……ふっきー、それって聞きようによっては、とんだドM発言だよ? ふっきーは『すめには絶対言わないでね!』と言いながら、出ていった。 本当に……大丈夫なのかな。 でもふっきー、全然落ち込んでなかったし。 「……」 オレはふっきーを心配しつつも、生徒会室に向かった。

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