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楽しい2学期はーじまーるよー④
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始業式の今日は、学校全体が午前中で終わりだ。
オレも学校に来るまで、午前中に帰る気でいたので、朝、田頭に昼ご飯を食べながら役員紹介すると聞かされてすぐ、いちいさんに、お昼ご飯はいらないと、連絡を入れておいた。
役員紹介の前に、会議室のテーブルには、生徒会役員にはお馴染みになりつつある、田頭家御用達の高級ケータリング料理が、ずらりと並べられた。
「んじゃ、新会長から一人ずつ入ってもらって、自己紹介してもらうから」
「何かのオーディションみたいだな」
かにちゃんは笑いながら、ペリエを一口飲んだ。
そんなことを言うから、かにちゃんが大物プロデューサーみたいに見えてきてちょっと吹き出した。
「サクラはもう会ったの?新しい役員さんたちに」
「会ったの?って、ばっつんだって会ったことはあるはずでしょ?同じ学校の生徒なんだからさ」
「あ、そっか。サクラ、誰が役員さんになったか知ってるの?」
「もっちろん」
サクラはふふんと笑って『心臓叩いておきなよ』と、オレの胸にトンッと拳を当てた。
「へ?」
「驚く準備だよ」
驚く準備?
「んじゃ、キイチから一人ずつ順番に入ってよ」
田頭は会議室のドアを開けて、向こうに控えているらしい新役員さんに声を掛けた。
驚く準備って何?
田頭が指名した新しい会長さんは、田頭が所属してるバイクチームの子らしいから、ものすごいわかりやすく不良チックな子……とか?
うーん……そうだったらオレ、仲良くしてもらえるかな?
田頭が一旦閉めたドアが再び開くのを、緊張しながら見守った。
「2年A組、須永喜市 です。よろしくお願いしゃっす」
思ってたのと、全然違う。
むしろ、皇以上のパーフェクト男である田頭の後釜に相応し過ぎてビックリじゃん。
田頭と同じくらいの長身で細身。長めの明るい黒髪を、おしゃれにピンピンと跳ねさせたヘアスタイル。ちょっと垂れた目と、きりりとした眉毛、高い鼻筋に薄い唇。
何か……イヤラシカッコ良いけど、女の子にモテそうだ。
「あと頼んだよ、喜市。喜市のやりやすいようにやってくれたらいいからさ」
「はい。頑張りまっす!」
「うん。んじゃ次、副会長ね」
こうして新役員が、一人ずつ紹介されていった。
副会長の二年生、小笠原瑠依 くんは、会長の須永くんと同じくらい長身だけど、すごく可愛らしい顔をした子だった。
くっきり二重のクリクリ眼に、太めの眉で
高い鷲鼻。化粧をしてるわけじゃないだろうに赤い唇と、その右下にある目立つほくろ。
にっこり笑った顔はウサギっぽいイメージなのに、身長が高いから、何かいい感じにアンバランスですごく目を引く。
次に紹介された書記は、御子阪典秀 くんと名乗った。一年生だという。
生徒会役員って、2年生だけがなるんだと思い込んでたオレが、驚きながら『一年生なの?』と聞くと、御子阪くんは『はい』と、はにかみながら、満面の笑みをオレに向けた。
うおー!なんだこの無邪気な笑顔は?!めちゃくちゃ可愛いっ!
自分が小さい頃から、男なのに『可愛い』なんて言われるのをムッとしてきたから、男相手に『可愛い』なんて、口に出したらいかん!と、いつも思ってはいるんだけど……。
この子は可愛い以外の言葉が見つからない!
オレがほえーっと思っていると、田頭が『じゃ、最後会計な』と、外に声を掛けた。
おっ!会計ってことは、オレが引継ぎをする相手だ。
どんな子なんだろう?
ドキドキしながらドアを見ていると『失礼します!』と言いながら、下げていた頭を上げた新会計くんと、目が合った。
……ん?
……え?
あれ?いや……いやいや、まさか……。
「1年A組、藍田衣織です」
……あい、だ……い、お、り?
嘘っ!?藍田?
いやいや!え?同姓同名?顔に藍田の面影は……ある?かな?
でも……オレが知ってる『藍田』じゃない!皇が弟みたいに思ってる藍田とは絶対違う!
「雨花ー、引継ぎよろしくね」
「って……藍田っ?!」
嘘っ!?雨花って言った!嘘?!
「そうだよ。何言ってんの?」
藍田?らしき男は、オレの手を取って小躍りし始めた。
いや……嘘だ!藍田はだって、オレより小さくて華奢で……それこそ、見た目だけなら、御子阪くんと張る勢いの天使臭を振りまいてたじゃん!
それが何?この目の前にいる『藍田』は、オレを見下ろしてて、肩とか何かガッシリした感じで……えええええっ?!
何で?嘘だよ!どうしたの?ちょっと待ってよ!完全にオレ、身長抜かされてんじゃん!やだーっ!
夏休み前はオレより10センチ近く低かった……よね?多分。夏休みに何があったんだよっ!2か月弱の間に、何が藍田を変えたんだよっ!オレにも教えてっ!
オレが藍田を見あげると、それに気付いたのか、藍田がにやっと嬉しそうな顔をした。
「やった!僕、雨花の身長を抜かしたね。これでもう雨花も、遠慮なく僕に体を預けられるでしょ?」
「変な言い方すんな!」
何だよ、こいつ!
嬉しそうにオレの手をぶんぶん振ってる姿は、確かに藍田っぽい、けど……。
こんなの、オレの知ってる藍田じゃないっ!
オレのこと嫁にしたいとか言ってても、てんで可愛らしい見てくれだったから、全然、危機感もなかったけど……こいつ、今やただのイケメンじゃん!
夏休みの2か月弱で、どんだけ身長伸ばしてんだよ?!成長率、おかしいだろうが!しかもムキってるし!嘘だ!藍田じゃない!オレの知ってる藍田じゃないっ!
「うーん……衣織、お前やるな」
サクラが顎を撫でながら、感心している。
「すでにビジュアル的に、ばっつんと並んで申し分なし!まぁ、ボク的にはもう少し身長差があるといいけど……このまま衣織が伸びていったら、がいくんより大きくなる可能性が高いっ!」
「嘘っ!?」
あ……ついオレが反応してしまった。
だって、皇より大きくなんて……でもこの成長率を見ちゃったら、皇より大きくなってもおかしくない!……かも。
「大きい方が好きでしょ?雨花」
声まで何だか低くなってるし!
何で?!今頃、第二次性徴、一気にきたの?もう本当に別人じゃん!
「何がだよ!っつか、とりあえずお前は後輩らしい話し方を覚えろ!」
握られていた手を振りほどくと『雨花が相変わらずで安心した』と、ニッカリ笑った。
ホント……何だよ!藍田のヤツ!くっそ!
ああ、何かオレ……自信なくす。
「まぁまぁ、そこはこれから引継ぎしながらゆっくり交流してくれよ。とりあえず昼にしようか」
田頭がオレたちの言い合いを止めて、みんなで昼食をとりながら、これからのスケジュール確認をした。
っていうか……藍田に……引継ぎ……。皇、何て言うだろう?
「雨花、ホントこれからよろしくね」
昼食会が終わって会計室に向かうと、後ろからついてきた藍田が背中からそう声を掛けてきた。
「こちらこそ。っていうか……何?何で藍田が生徒会役員に選ばれてんの?須永くんと知り合い?」
「なんでって、どうしても生徒会に入りたかったから、次の会長になるだろう喜市先輩を調べたんだ。そしたら、同じクラスのてんてんと仲良しなのがわかったからさ。てんてんに自分を売り込んだんだよ」
てんてん?ああ、御子阪くんのことか。
っつか、生徒会に入りたかった?……それって……。
「学年も違う雨花に、僕をもっと知ってもらうにはこれが一番手っ取り早いかなって思ってさ」
「……」
オレが、原因……。
藍田、未だにオレのこと、嫁にしようと思ってたの?
夏休みがあんまりにも色々ありすぎて、そんなのすっかり忘れてた。
「知ってもらえたら、僕を選んでもらえる自信あるからさ。ね、だから僕を知ってよ、雨花」
藍田に、壁に追い込まれて見下ろされた。
今まで藍田にこんなことをされても、本当に怖いとは思わなかっただろうけど……オレより大きくなった藍田に、こんな風に追い込まれたら、今は……怖い。
ドンッと胸を押して、藍田の腕の中から逃げた。
「次こんな真似したら……引継ぎしない」
「ごめん!わかった。もうしない!」
「……」
「ごめん、雨花」
「……」
「ごめんなさい。本当にもう、しないから」
後ろに立つ藍田をチラッと見ると、頭を下げて、シュンとしている。
見た目は変わっても、こういうとこ、やっぱり藍田は藍田だなぁ。
「……明日から会計処理を一緒にやっていくから、しっかり覚えろよ。これ、渡しておくから。会計室の鍵」
藍田に会計室の合鍵を差し出すと、藍田は顔を明るくして『うんっ!』と、嬉しそうに受け取った。
「大事にするね。鍵も……雨花も」
「……うおおおおっ!」
「何?」
自分より大きくなった藍田にそんなセリフを吐かれて、何かわかんないけど……背中がカユイっ!
……これが皇だったら、普通に喜んでただろうけど。
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