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楽しい2学期はーじまーるよー⑧
夏休みボケをしている間もなく、二学期開始二日目の今日から、普段通りの7時間授業が始まった。
昼休み開始早々、配り始めた部費の領収書を配り終えた時、昼休みはまだ、ご飯をゆっくり食べられる程度には残っていた。
ご飯を食べる時間がなくなるようなら、5時間目は少し遅れて出ようかと思っていたけど、これなら全然間に合いそうだ。
「じゃあ、放課後にな」
藍田の顔も見ずにそう言って、一年の教室棟との分岐点になっている廊下の広場で手を振ると、後ろにいた藍田は『雨花、ご飯は?』と、聞いてきた。
「教室戻って食べるよ。お前も早く戻って食べな」
「僕も雨花と一緒に食べる」
「は?」
「だって教室戻っても、みんなもう食べ終わっちゃってるだろうしさ」
「教室で一人で食べるのがイヤなら、会計室使っていいぞ」
「一人がイヤなんじゃなくて、雨花と一緒がいいんだよ」
「……」
こいつは……。
オレが藍田にどう返事をしたらいいもんかと思っていると、遠くのほうから『雨花ちゃーん!』という声が聞こえてきた。
声のほうを向くと、廊下の端のほうでふっきーが手を振っている。
その後ろに皇を引き連れて……。
塩紅くんが転校したあとも、候補が皇と順番にランチを一緒に食べるっていうランチ当番は健在だった。
二学期一発目の今日は、ふっきーが当番になっていた。
「あ、れ?え?……もしかして、藍田くん?」
オレたちに近付きながら、ふっきーはオレの後ろにいる藍田を見て、驚いた顔で首を傾げた。
まぁ、驚くよね、うん。オレもこの姿の藍田を見た時、絶対別人だと思ったもん。
「うん。夏休みの間、結構頑張ったからなぁ、僕」
え?何を?どうやって?どう頑張ったら、そんなに見た目変われるわけ?オレにも教えてっ!
「え?何したの?」
よしっ!ふっきー!いい質問だ!
「朝から晩まで肉体労働してた」
「はぁ?」
って……オレが驚いてどうするっ!
「え?何驚いてんの?雨花。あ!肉体労働って言っても、健全なヤツだからね?エッチなやつじゃないからね?」
「……」
え?!エッ……エッチ、な、肉体労働って、何っ?!
「雨花になら喜んでそっち方面の肉体労働しちゃうんだけどなー」
そっち方面って何ーっ?!
ニコニコしている藍田がオレに向かって伸ばしてきた手を、ふっきーの後ろから出て来た皇が掴んで止めた。
「触るでない」
「すーちゃん、心配しなくていいよ?僕、雨花のこと、ちゃんと全部受け止める自信、ついたんだ。雨花のことすっごく大事にするから、雨花のことちょうだい」
藍田は皇の手をそっと剥がした。
っつか、何を言ってんだ、こいつは!
「まだそのようなことを言うておったのか。これ以上手出しすれば、お前とて潰すと言うたはず」
皇はオレの腕を引いて、自分の背中に隠すように藍田から離した。
「力で脅すってことは、すーちゃんとやりあって勝ったら、雨花をもらっていいってこと?だったらやろうよ」
「はあっ?!」
何言ってんの!お前はー!
「それにしても変わったね、藍田くん」
ふっきーは、睨む皇と腕を組む藍田のいやーな雰囲気なんか気にもせず、まじまじと藍田を見ていた。
……ふっきー、メンタル強いな。
でもふっきー!わかる!ビックリだよね?オレも昨日、この藍田を見た時、今のふっきー状態だったもん。
「変わった?ああ……幾分、背が伸びたか?」
幾分って伸びっぷりじゃないだろうが!もうトランスフォームだよ!
夏休み忙しかった皇は、この藍田を見たのは今が初めてのはず……だよね?ビックリしないの?
「え?藍田くん、相当伸びたよね?」
ふっきーが藍田にそう聞くと『あ!そういえばすーちゃんって、外見はどうでもいい人だった』と、ため息をついた。
へ?
「外見なぞたかが1ミリ2ミリの差で、ついているモノはみな同じであろうって、すーちゃん、昔っからよく言ってた!すーちゃんが、人の外見の変化なんか気づくわけないよ」
いやいや。だから藍田は、1ミリ2ミリの変化じゃないからね?
「すめは外見で人を判断しないってことだね」
「カッコ良く言えばそうかもね。でもそんなんじゃ、雨花が丸坊主にしたって、すーちゃんは気付かないかもよ?」
「え?」
いや、それはないから。
だって……皇とちょっと会えなかったあと、オレの髪が伸びたって、言ってたもん。ホントに少ーし伸びた程度だっただろうに気付くくらいなんだから、坊主にして気付かないわけないじゃん。
「外見の違いなぞ、個人の区別がつけば良いと思うておったが、今はその1ミリ2ミリの違いにこだわる思いも、わからぬでもない」
わからぬでもない?お前、オレの水着がどうのとか、テニスウエアのパンツ丈が短いとか、見た目の1ミリ2ミリにこだわりまくってんだろうが!
皇が人の外見はどうでもいいと思ってるとか、絶対嘘!
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