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楽しい2学期はーじまーるよー⑨
「へー……すーちゃんが外見にこだわるようになったってこと?」
こだわってるよ!皇は人の外見にこだわりまくってるよー!
そんなことを言うと怒りそうだから黙っておくけど……。
「その者の性格は顔に、生活は体に出ると聞く。どれ程見た目の造作を変えようが、人の本質はさほど変わらぬ。お前とて、多少見た目が変わろうが衣織ではないか」
藍田はきょとんとした顔をしたあと『やっぱりすーちゃんってすごいよね。カッコイイことサラーっと言っちゃってさ』と言って、ため息を吐くと『じゃあ、柴牧センパイ?また放課後、引継ぎお願いします』と、オレに頭を下げて行ってしまった。
一緒に食べるとか言ってたのに、お昼ご飯、いいのかな?
オレのほうに振り返った皇は『戻るのか?』と、聞いてきた。
「あ……うん。二人は食べ終わったの?まだ結構、昼休みの時間残ってるよね?」
オレがランチ当番の時に、こんな早く教室に戻ることになったら……イヤだなぁ。せっかく学校での皇を独り占め出来る時間なのに。
ふっきーは学校で皇といつも一緒にいるから、ランチ当番にしがみつく必要なんてないのかもしれないけどさ。
「うん。ちょっと先生に呼ばれてて。じゃあ行って来る」
ふっきーは手を振って行ってしまった。
「ふっきー、なんちゃらオリンピックが終わっても忙しそうだね」
「大学の学部決めで、何やら揉めておるそうだ」
「え?」
大学の学部決め?
教室に戻りながら皇が、あのなんちゃらオリンピックで金賞を取ると、自動的に東都大への入学が許可されるのだと説明してくれた。
東都大っていったら、世界の中でも優秀だって言われてる大学だよ?
そこに自動的に入学が決まるって、あのなんちゃらオリンピックって、どんだけ権威ある大会なんだよ!すごいな、ふっきー。
なんちゃらオリンピックは、情報処理の大会なため、今まで金賞を取った人たちは、たいがい理学部か工学部に入学していたらしい。
でもふっきーは、経営学部を希望してるって……。
本当にそれでいいのか、先生から何度も念を押されているそうだと、皇は相変わらず表情の変わらない顔で説明してくれた。
っていうか……ふっきー、東都大にすでに入学が決まってるんだ?
しかも希望は、皇と同じ経営学部……。
「皇……東都の経営学部に入るんだよね?」
「そのつもりだ」
「……そっか」
やっぱりふっきーと、一緒……。
「どう致した?」
「……何でもない」
皇とふっきーが同じとこに入るからって別に……今と状況は変わらないけど。
今だってふっきーは、オレよりずっと長く、皇と同じ時間を共有してる。
そういえば皇も言ってたっけ。
オレが一番、皇と接点が薄いって……。
「具合が悪いのか?」
「……」
夏休み中、オレ……随分皇と近付いた気になってた。多分、本当に近付いたとは思うけど……それは、皇とオレしかいない空間の中だけの話で……。
候補全員がいる中に入ったら、今もオレは、皇から一番遠い場所に、立っているのかもしれない。
オレの顔を覗き込んできた皇を見上げると『辛いのか?』と言った皇が、ふと視線を下げた。
皇の視線を追ってオレも視線を下げると、オレの手は無意識に、皇の袖を掴んでいた。
「うぁっ!」
ちょっ!無意識、怖っ!
自分でビックリしながら皇の袖を離すと『ええー?もう終わり?』と、後ろからサクラの声が聞こえて来た。
咄嗟に振り返ると、3年A組の教室のドアから、サクラが顔を出していた。
どはぁ!よりによって、サクラに皇の袖を握ってるとこ見られた!
「違う!今、皇の袖に、あ!何か!変なもんが付いてたから!取っただけでっ!」
ニヤニヤしながら近付いてきたサクラに、ワタワタ言い訳すると『はいはい』と、聞き流された。
「ちょっ!ホントだってば!」
「はいはい。それより、ばっつん」
「ん?」
「謝恩会のお金、帰りまでに用意出来るかな?とりあえず予算の半分でいいんだけど」
「へ?うん。いいけど……っていうか、謝恩会って結局、何するの?」
"謝恩会"は、生徒会の帳簿に記載されているから、毎年学祭の日に開かれるものなんだっていうのは知っている。
だけど、どんなことをしているのか、帳簿を見ただけだと詳しい内容がわからない。
生徒会役員を卒業する人たちの秘密のパーティーだって、前の会長の鏑木先輩がそんなこと言ってたけど……。
去年、オレは予算通りのお金を渡しただけで、細かい領収書は一切上がってこなかった。先輩たちが何をしていたのか、内容は全くわからない。
今年も予算は取ってあるので、やるのかな?とは思っていたけど、田頭から詳しい話は、未だに何も知らされていなかった。
謝恩会っていうんだから、先生たちと会食……なんだよね?多分。
「ふふーん。内緒。そっちはきみやすとボクで準備してるから、受験組はただ楽しみにしてて」
サクラは不敵に微笑んだ。
……イヤな予感しかしない。
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