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楽しい2学期はーじまーるよー⑩

「謝恩会の日は帰れないかもしれないから、おうちの人によーく言っておいてね?ってことで、ボクの用事はそれだけだから。はい!さっきの続きして!ファイッ!」 サクラはニヤニヤしながら教室に入って行った。 さっきの続きしてって……出来るかっつうの! っていうか……学祭の日、帰れないかもしれないって……一晩中かかるの?謝恩会って……。先生たちと一緒に何をするわけ? それより、その日家に帰れないって……”おうちの人”は多分、大丈夫だと思うけど、一番うるさそうな人が、今一緒に話を聞いてくれてて助かった!説明がしやすい! 今のうちに皇に許可をもらっておこうと、オレは人が来ない本館五階に続く階段の踊場に皇を引っ張った。 「あ……あのさ。さっきのサクラの話、なんだけど……」 「謝恩会の話か?」 「うん。何かね、学祭の日に生徒会役員を卒業するメンバーで謝恩会を開くんだって。どんなことするのか、オレはよくわからないんだけど……。今のサクラの話だと、帰れないかもしれないって……」 伺うように皇を見上げると、キュッと口を結んで、オレを見下ろしている。 うわっ!やっぱり駄目って言われる?よね?そうだよなぁ。 サクラに言って、何とか早めに帰れるように……してもらえるかなぁ? 「謝恩会とは、世話になった方々に感謝するために開かれる会であろう。しっかりと今までの礼をして参れ」 ……えっ?!嘘っ?!いいの?それって、帰れなくてもいいってこと? 「いいの?」 「あ?そなたは、要らぬと言うに家臣一人一人に礼状を書くほど恩義に厚い。そなたの気の済むようにして参れ」 「……ん。ありがとう」 泊まりになるかもしれないなんて、絶対皇に反対されると思ってたのに、逆に礼をしてこいなんて言ってもらえるなんて……。 皇……オレのこと信じてるって言ってくれたし、オレが恩義に厚いからなんて……オレのことを考えて、許してくれたんだ。 何か……すっごい嬉しい。 「羽目を外し過ぎるでないぞ」 「うん!あ……でも、出来る限り、早く帰るから」 「そうか」 皇は、優しい顔でオレの頭をポンッと撫でた。 「……ん」 ……皇、カッコイイ! 照れるじゃん!もー! 「そなた、まだ昼餉をとっておらぬのではなかったのか?」 「あ!そうだった!」 時計を確認すると、急いでお弁当を食べないと間に合わない時間になってる! ああ、こりゃあ教室でお弁当は無理かなぁ。 「もう間に合いそうにないから、生徒会室かどっかで食べて来る。先生に、ちょっと遅れるからって言っておいてもらっていい?」 「一人で良いのか?」 「え?一緒に行ってくれるの?」 ……いや、駄目駄目!今日オレが皇と一緒にお昼を食べたら、ランチ当番の意味ないじゃん! 「一人で食うのは味気ないと、いつぞやそなたが申しておったではないか」 「そう……だけど。でも、今日はふっきーが皇と一緒にお昼を食べる日だからオレは駄目!」 「あ?」 「いいから。オレは生徒会特権があるからいいけど、お前は授業に出ないと欠席になっちゃうだろ」 皇の背中を押して、教室に戻るように促した。 「そなた、明後日の昼もそのように忙しいのではあるまいな?」 「え?」 明後日? 「そなたが余と共に昼飯を食う日であろう?」 うわっ……皇が、そんなこと気にしてくれてるとか……意外! ランチ当番はオレの中で最優先なんだから、どんな用事が入ろうが、全部後回しにするから! 「明後日は……ダイジョブ……です」 楽しみにしている自分に恥ずかしくなって、何故か敬語になってしまった。 「そうか。……その時、そなたに見せたいものがある」 「へ?何?」 「ん?……楽しみにしておれ」 皇が口端を上げた顔に見惚れていると、階段の下から『あ!いた!柴牧せんぱーい!』と、呼ばれた。 見るとバスケ部の部長だ。 「領収書、持って来ました!」 「あ!ありがとう」 領収書を受け取るため立ち止まると、皇が『先生には伝える。しっかり昼はとれ』と、オレの頭をポンッと撫でて、教室に戻って行った。 「鎧鏡先輩、部活してなかったんすよね?もったいないなぁ」 「そうだね」 好き嫌いを言ったらいけない皇は、何かに打ち込むことも許されないのかもしれない。 ってことは、皇の嫁は、皇が唯一、好きだと言ってもいい存在……ってこと、なのかも。 ……なりたいなぁ。皇の、そんな存在に……。 っていうか……皇が明後日、オレに見せたいものって何だろう? ニヤニヤしてしまう顔を叩きながら、お弁当を抱えて生徒会室に向かった。

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