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みたらし団子も好きになったようです⑤
9月6日 晴れ
今日は、月見会です。
昨日の午後、オレたち候補に外出禁止令が出た。
今日の月見会のあとに、天戸井のお披露目のための練り歩きが行われる。
今回の練り歩きは、日が暮れてから行われる月見会のあとってことで、昨日の午後、練り歩きのコースに、道中を照らすための提灯が吊るされた。
家臣さんたちに姿を晒すことを良しとされていない候補たちが、提灯の飾り付け作業をする人たちに姿を見られないよう、外出を制限されたらしい。
天戸井が住んでいる”杉の丸”は、本丸から一番近い場所にある。
練り歩きは、本丸から屋敷までの道を皇が送ってくれるっていう儀式らしいけど、梅ちゃんの話では、自分の屋敷があまりに本丸から近いということで、遠回りをして帰らせて欲しいと、天戸井から皇に申し出があったという。
今日の天戸井の練り歩きのコースは、候補が住んでいる区画全てを通って屋敷に帰るという、前代未聞の長さになっていると、朝食を一緒に食べながらあげはが教えてくれた。
「本来でしたら、そんなわがまま絶対許されないのに、それがまかり通ってしまったのは、晴れ様のことがあったからだろうって話を聞いたんですけど……それってどういう意味ですか?」
あげはは素朴な疑問を投げただけなんだろうけど、オレは塩紅くんの名前を聞いて、ギクリと肩を震わせた。
「そのようなこと、何の根拠もないただの噂です。候補様について、とやかく詮索してはなりませんよ、あげは」
穏やかだけど、反論を許さない雰囲気で、いちいさんはあげはをたしなめた。
「……はーい」
間延びした返事をしたあげはは『楽様がどうしてわがままを聞いていただけたのかわかれば、雨花様のわがままも聞いていただけるんじゃないかなって、思ったんです』と、口を尖らせた。
「あげは……ありがとう。大丈夫だよ?聞いてもらいたいわがままなんて、オレ、ないし」
「ええ?本当ですか?……ボクが偉かったら、何の理由もなくたって、雨花様のわがまま、何でも聞くのに……」
「え?本当?あははっ……じゃあ、あげはが偉くなったら、わがまま言うからよろしくね」
「はい!何でも言ってください!」
「うん。楽しみにしてる」
あげはって、一体いつから曲輪で働いてるんだろう?こんな小さいうちから曲輪で働けるってことは、いずれ偉い人になるのを約束されてるってことなんだろうなぁ、多分。
あげはが偉くなった時、オレはどうしているだろう?あげはにわがままを聞いてもらえるような人間でいられるんだろうか?
月が南中近くまで昇ってきた夜八時。
鎧鏡家の年中行事である『月見会』が始まった。
鎧鏡家では、月には魔物が住んでいると言われているそうで、魔物の力が満ちる中秋の名月の夜、月の魔物に心を盗まないで欲しいと懇願し貢物をするのが、この月見会なんだそうだ。
一般的に月見って、月の神様にお供えする……みたいな行事だと思うんだけど……。
言われてみれば、太陽は男性、月は女性になぞらえられることが多い。
女人禁制の鎧鏡家ならではのお月見の解釈に、駒様からその話を聞いた時、妙に感心したのを思い出した。
天戸井の舞は、八時半に始まった。
夜の行事は、この本丸の広い中庭で行われるようで、ふっきーが舞った納涼祭の時と同じステージが組み立てられていた。
月の明かりのように、柔らかい照明に照らされながら天戸井が入場してくると、ざわざわと騒がしかった会場がシーンと静まり返った。
でも……みんながこんな反応になるのもわかる。
天戸井は、サクラが言っていた通り、見た目だけなら本当にすっごく綺麗だって、オレも思う。
まぁ、性格はわからないけど……。
皇はこの前、性格は顔に出るって言ってたっけ。天戸井は、頭が良さそうで品のいい綺麗な顔をしていると思うけど、どことなく気位の高そうな、気の強そうな雰囲気を感じる。
それは多分、オレの思い込みじゃなくて、天戸井の性質として、そういう一面を実際持っているんじゃないかと思う。
天戸井が10分弱の舞を終えるまで、会場は静まり返ったままだった。
会場が大きな歓声に包まれたのは、天戸井が舞を終え、座礼から顔を上げたあとだ。
オレが座るこの場所からは、納涼祭の時と同じように、家臣さんたちの声がよく聞こえてきた。
『綺麗』って声が一番多いかもしれない。
ホントに天戸井、綺麗だもんね。
座礼を終えた天戸井を出迎えるため、皇が立ち上がった。
ここからじゃ、皇の背中しか見えない。
ゆっくりと歩いてきた天戸井に手を伸ばした皇を、天戸井はこの上もなく幸せそうな顔で見上げていた。
皇の背中を見ながら、月見会に倒れず最後まで出られたとほっとしたけど……。
「……」
皇は今、どんな顔で天戸井を見ているんだろう?
優しい顔でオレを見下ろす皇の顔が頭に浮かんだ。
あんな顔で、天戸井を見てるの?
またオレ……自分の独占欲で、胸が潰れそうだよ。
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