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みたらし団子も好きになったようです⑪
「雨花が、今しばらく月を待つと申しておる」
オレのペニスをしごく手を止めずに、皇はしれっと、扉の向こうにいるいちいさんに返事をした。
「っふ……くっ……」
酸素が……足りない。
声を押し殺すのに必死で、頭がクラクラしてきた。
いちいさんの『ではお茶をお持ち致しましょう』という声が、自分の激しい息遣いの向こう側から聞こえてきた。
「茶は要らぬ。……そなたも要らぬであろう?」
口端を上げながら、オレにそう問いかけた皇が、キュキュッと雁首を強めに撫でた。
「くっ……」
ビクンっと大きく体がしなって、こらえ続けていた快楽が弾けた。
いちいさんがすぐそこにいるのに……オレ……。
「雨花も要らぬと申しておる」
「かしこまりました。失礼致します」
いちいさんが階段を下りていく足音を聞きながら、深い呼吸を出来る限りゆっくり繰り返した。
すぐに呼吸は整い始めて、ゆっくり目を開くと、オレが吐き出した精液を手の平に乗せた皇が、何ともいえない顔でオレを見下ろしていて……きつく掴んでいたオレの手首を離した。
「……嘘つき」
誰か来たら止めるって言ったのに……。
オレの上に跨っている皇を睨み上げると『腹を立てておるのか?』と、オレの目尻に唇を付けた。
「当たり前だろ!いちいさんに聞かれたかもしれないじゃん!」
「一位に聞かれたことが怒りの原因か?一位はそなたが余とまぐわっておったほうが喜ぶであろう?」
「うっ……」
そうだろうけどっ!
そこじゃないだろうがっ!
「そうじゃなくてっ!」
「あ?では何に腹を立てておる?」
「何って……」
「ん?」
「恥ずかしんだよっ!バカっ!」
そうだよ!結局、怒ってるっていうか……恥ずかしいんだよ!
殿様気質のお前にはわかんないだろうけどねっ!
「ただ恥じらっておるだけであるなら……余も……鎮めて良いか?」
また掴まれた手を、皇のペニスまで招かれた。
皇の……勃ってる……。
「あ……」
「良いか?」
もー絶対許さない!って思ってたのに……。
のしかかってる皇が、そんな状態でオレを呼んでるのに……駄目、とか……言えるわけないじゃん、バカ。
ギッと睨んでから、皇の襟を掴んで引き寄せた。
「……ん」
皇の耳元に『いいよ』って意味で、そう返事をした。
文句は……あとでいっぱい言ってやるんだから。
「雨花……」
オレを呼ぶ……皇の声。胸がギュウギュウ、苦しくなる。
「雨花……」
そんな、大事そうに……抱きしめないでよ。
オレ……ホントに、勘違いするじゃん。
オレが吐き出した精液を潤滑剤代わりに、皇はオレの中にペニスを埋めた。
皇の肩越しに見えた空は真っ暗で……もう今夜、月は出ないのかもしれない。
月の魔物が本当にいても、オレも……心を奪われることはないと思う。
皇が……いれば……。
「ってことで。お前のことはもう信じない」
「あ?」
「誰か来たら止めるって言ったのに!嘘つき!」
服を戻しながら皇に文句を言い出すと、すでに着物をしっかり着た皇がふっと鼻で笑った。
「まだ腹を立てておったのか?」
「立てるに決まってんだろ!」
「余に怒りをぶちまけるとは、打ち首ものだ」
「……」
そうやって都合が悪くなると”鎧鏡次期当主”って肩書き、ちらつかせてきてさー!
ギロッと睨むと、皇はまたふっと笑った。
「だが……そなたの怒りを受け止めるのは悪くない」
「う……」
「ん?」
こいつはっ!
そんなこと言われたら、怒れないじゃん!
皇を睨みつけると、肘をついてこちらを見上げている皇と目が合った。
……かっこいい。
「うっ……」
「ん?」
かっこいいからって、何でも許されると思ってんなよー!くっそー!
その時、窓のそばにしつらえられたお団子が目に入った。
「あっ!お団子食べてないっ!」
お団子を持って来て、皇の前に置いた。
「ん?」
「天戸井の内祝い、食べた?」
「あ?いや」
「え?そうなの?すっごい美味しかったのに、もったいない。……ま、お前、甘い物嫌いだもんね」
みたらし団子を一口食べた。
おっ!天戸井にもらったみたらし団子に負けないくらい美味しいっ!
「好きだの嫌いだの言うてはならぬと言うておろうが」
「だってホントのことじゃん。お前、甘い物嫌いだろ?」
「……今では苦手ではなくなった」
「えっ?!嘘っ?!あー、はいはい、また嘘だ」
「嘘ではない」
皇はオレを見て、またふっと笑った。
「……何?」
「そなたは甘い物を好むからか、いつでもどこか薄ら甘い」
「は?嘘っ?!」
みたらし団子を飲み込んだばかりのオレの唇を、皇がペロリと舐めてキスをした。
「みたらし団子も、悪くない」
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