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みたらし団子も好きになったようです⑫
もう一度オレにキスをした皇は『美味いな』と、口端を上げた。
「好きだの嫌いだの言うてはならぬというに……そなたとおると、好きな物が増えて困る」
「うっ……」
嘘?!……ホント?
オレが、お前の好きな物、増やしたとか……ホントに?ホントなら……めちゃくちゃ嬉しい。
オレ、いくつお前の好きな物を増やしたの?
一個だけでも、すっごく嬉しい。
……嬉しい。
嬉しいよー!
「雨花」
「え?」
「もう月は出そうにない。部屋に戻るか」
「あ……うん。そうだね」
皇と一緒に中秋の名月は見られなかったけど……今夜、皇と一緒に月を待っていたことも、未来のオレの、大事な思い出になったと思う。
「そなた、後 の月見を知っておるか?」
「のちのつきみ?何、それ?」
「次の満月の夜、中秋の名月を見た同じ場所にて月見を行わねばならぬという風習だ」
「へー……知らない」
そんな風習があるんだ?
「後の月見をせぬのは”片月見”と言うて疎まれる。ゆえに、次の満月の夜、そなたの横で月を愛でよう。また団子を作らせるが良い」
「あ……うん」
ドキドキ、ドキドキ……心臓がうるさい。
次の満月って、いつだろう?一ヶ月くらい先、だよね?
皇とそんな先の約束を持てたことに、心臓がドキドキしてる。
「下りるぞ」
オレの背中に手を置いた皇が『やはりそなたはどこか甘い』と、オレの首筋にくんっと鼻を近付けた。
「どはっ!……え……臭い?」
首筋を隠すように手で押さえて振り向くと、皇がふっと鼻で笑った。
「いや。……どこか甘く……快い香りだ」
「うっ……嘘!だってオレ、汗かいてるし!それ、みたらしの匂いじゃないの?」
急いで自分の腕を嗅いでみたけど、自分じゃ自分の匂いなんてわからない。
「いや、そなたの香りだ」
「ちょっ……クンクンするな!」
またオレに鼻を近付けた皇から一歩後ずさると、顔をしかめた皇がまた鼻を近付けた。
「ちょおおっ!やめっ!」
そういえばこいつ、お正月に迎えに来てくれた時も、三日お風呂に入ってないオレを、いい匂いとか、言ってたよね?確か……。
もしやこいつ、クサい匂いフェチ?
「何を今更気にすることがある?つい先ほどまで、散々繋がっておって……」
「どあっ!」
恥ずっ!確かにそうだけど……そうだけどっ!
「オレ、お風呂入る!お前はゆっくり下りて来て」
「あ?共に入れば良かろう」
「はぁ?やだよ!」
急いで階段を下り始めると、皇もオレを追いかけるように階段を下りて来た。
そのまま皇と追いかけっこをするように階段を下りて和室に戻った。
和室に戻ってからも、お風呂に一緒に入る、入らないで一悶着があって、でも結局、オレの抵抗なんかあってないみたいなもんで……皇と一緒にお風呂に入ることになってしまった。
お風呂から出て髪を拭いていると、皇はまたオレに鼻を近付けて、くんっと匂いを嗅いだ。
洗ったばっかりでも、やっぱりそんな風にされると、恥ずかしい。
「お前……匂いフェチだったの?」
そう言って、タオルで髪を拭きながら、オレに鼻を近付けている皇を見上げると『やはりそなたはどこか甘い』と、ふっと笑った。
……何か、恥ずっ!
一人でドライヤーをかけられるようになった皇が髪を乾かし始めると、同じシャンプーで洗ったはずなのに、皇の香りがふわっと香ってきた。
皇のこと、匂いフェチかとか言ったけど、そう言えばオレも、皇の独特なこの匂い……好きなんだった。っつかむしろ、大好きっていうか……。
つい皇に近付いて、くんっと匂いを嗅ぐと、急に振り向いた皇が『ん?』と、笑った。
「どはっ!」
「何を赤くなっておる?」
「べっ!……別にっ!早く乾かしなよ!」
そう言って下を向くと、頭に柔らかく何かが触れた。
咄嗟に顔を上げると『風呂に入ったばかりでもそなたはどこか甘い香りがするのだな』と、皇がまたふっと笑った。
「そなたも早う、乾かすが良い」
「ん」
そう言って、オレにドライヤーを渡した皇は、新しい寝間着をきっちり着て、先にお風呂場から出て行った。
「……」
オレ、甘いんだ?
また自分の腕を嗅いでみたけど、やっぱり自分じゃわからない。
でも……。
オレにはわからないのに、皇は知ってる『オレ』のことを、皇から教えられるのって何か……ちょっと……嬉しい、かも。
ドライヤーで髪を乾かしながら、つい鼻歌を口ずさんでいる自分に気付いて、恥ずかしくなった。
だって……浮かれもするよ。
オレが、皇の好きな物を増やした……とか。
皇、みたらし団子も好きになったって、こと……かな?
オレも、みたらし団子は前から好きだったけど……今夜もっと……特別、好きになったよ。
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