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知る知る見知る②

✳✳✳✳✳✳✳ ふっきーに、なるべく一緒にいようと宣言してから、オレは休み時間たび、ふっきーと行動を一緒にするようになっていた。相変わらず皇は、天戸井と一緒にいることが多いし……。 昼休みは、ふっきーを会計室に引っ張って行って、衣織に引継ぎをしながら、三人でお昼ご飯を食べるようになった。 オレがランチ当番の時は、サクラにふっきーを誘ってもらうようお願いしておいた。 オレのランチ当番の時に、ふっきーも一緒に皇と三人でお昼を食べようって言ったら、ふっきーが、それだけは駄目だと頑なに反対するので、サクラにお願いすることにしたんだ。 ってことで……今日もオレは会計室で、衣織がおにぎりを食べつつデータの打ち込みをしているのを横目で見ながら、ふっきーとお昼ご飯を食べている。 「あ!ふっきー!天戸井の誕生会の案内、貰った?」 今朝、学校に行く前に、杉の丸の一位さんが、天戸井の誕生会の案内を屋敷まで持って来てくれた。 「ああ……うん。貰ったよ」 「ふっきー、出る?」 「何の用もないのに、出ないのもおかしいしね」 「……だよね」 嫌な態度を取られている相手でも、呼ばれた誕生会に出ないわけにはいかないよね。 天戸井、何だかんだふっきーに突っかかってる割には、誕生会には呼ぶんだな。 「雨花ちゃん、誕生会の案内、内容見た?」 ふっきーが、出し巻卵を飲み込んだあと、そう聞いてきた。 「ううん。急いで学校に出ないといけなかったからまだ開いてないけど、何?」 「そっか。会場、しらつきホテルの別館なんだって」 「えっ?!杉の丸でやるんじゃないの?」 何それ?そういうの有りなんだ? 「誕生会を別会場でやるなんて、初めてみたいだよ?練り歩きでおひねり撒いたのも初めてらしいし。前例のないことをして、自分の能力をアピールしたい人なのかもね」 「ふーん」 能力をアピールって……皇に?オレ、皇にアピールしたい能力自体ないしなぁ。 でも……家臣さんたちに認めて貰えるような候補になりたいし、そのために、今は受験を頑張ろうって思ってるけど……。 「あ、そうだ!ふっきー、学部決まったの?」 「ああ、うん。ようやく経営学部の経営学科で許可が下りたんだ」 「そっか……皇と、一緒だよね?」 「すめが入れたらね」 ふっきーはいたずらそうに、ふふっと笑った。 「皇が入れないわけないよ」 「あははっ……だよね」 高遠先生は、一般受験するオレに、推薦よりも一般受験のほうが周りからの評価を得られやすいって言ってくれたけど……ふっきーみたいな推薦なら、家臣さんたちからの評価は断然高いと思う。 もう、別次元だよ。やっぱりふっきーはすごいよなぁ。 若干落ち込み始めたところで、データの打ち込みをしていた衣織が『せんぱーい!終わりましたー!』と、手を挙げた。 「んー、ご苦労」 オレがデータのチェックをしている間に、ふっきーと衣織は何やら小難しいパソコンの話をしていた。 チェックが終わって、オレがまたご飯を食べ始めると、何からそんな話になったのか、衣織が『そういえば僕、変なあだ名付けられてるみたいでさ』と言い出した。 「へ?」 変なあだ名?え?……まさか、衣織も嫌がらせを受けてるの?! 「どんなあだ名?雨花ちゃんの”ばっつん”もたいがいおかしい気もするけど」 「ぅえっ?嘘!」 『ばっつん』って、結構気に入ってるんだけど。 「……ラストサムライ」 「は?」 「"ラストサムライ"だよ」 「てんでかっこいいじゃん!」 心配して損した。 「なんでラストサムライなの?」 ふっきーは笑いを堪えている。 「何かよくわかんないけど……体育祭の時に揉めたじゃん、僕。なんか、そっからそう呼ばれてたみたい」 「ああ、あの時のね。お前が夏休み、急にでっかくなったからからと思った」 「何で急にデカくなったからって、ラストサムライになるんだよ」 「あははっ、そっか」 誓様の正体を知った時のあの揉め事のこと、だよね。 衣織はそれまで、周りに腕っぷしが強い姿は見せていなかったみたいだし……あの体の大きい子に、まだ小さかった衣織が、圧倒的強さを見せつけたんだ。そんなあだ名がついてもおかしくない。 「全然変なあだ名じゃないじゃん。喜べよ、ラストサムライ」 「やめてよ、雨花!」 「早くおにぎり食べないと、五時間目に遅刻するぞ?ラストサムライ」 「……雨花に話すんじゃなかった」 衣織はブツブツ言いながら、おにぎりを口に放り込んだ。 「雨花ちゃんって、案外いじめっ子?」 「ええええっ?!嘘っ!ごめん……衣織、気にした?」 衣織はムッとしながらオレを見ると『雨花にならいじめられたい』と、ニッカリ笑った。

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