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知る知る見知る③
「僕も藍田くんが夏休みの間にすごく変わったからついたあだ名かと思ったよ」
ふっきーは頬杖をついて、ニコニコしながらそう言った。
「でしょ?」
「人間って、短期間でここまで変われるもんなんだね」
ふっきーは衣織をまじまじと見ている。
「ちょっと体を使うバイトしまくってたら、こうなったってだけなんだけどさ」
「そんなにムキムキになるほど、バイトしたんだ?」
「うーん……まぁ、結構働いた……かな」
「お前、食費稼ぐためにバイトしてるんだよね?」
「え?……うん。そう」
「何で夏休み、そんな働かないといけなかったわけ?」
夏のほうが食欲が湧くのか?オレは暑いと食欲落ちるけどなぁ。
「ああ……えっと……かまちょがすごい食べるから」
「かまちょ?え?ペット?」
「あははっ……僕のお目付役だよ。僕が悪さしないか、いっつも見張ってんの。かまちょにも食べさせないといけないからさ」
「へー……」
お目付役がついてるなんて、初めて衣織のお金持ちらしいエピソードを聞いた気がする。
皇の話だと、藍田家は鎧鏡と張る家柄だって言うし、実は衣織って、そこらへんの生徒より全然おぼっちゃんなのかもしれない。
お目付役がいるとか聞いても、衣織はオレの中じゃ、全然お金持ちキャラじゃないけどね。
そのかまちょさんの話から、うちのいちいさんとふっきーのとこの一位さんがどうにも怪しい関係なんじゃないかっていう話になって、三人でワーワー騒いでいるところに、てんてんがやって来た。
「何かすごく楽しそうでしたね。何の話してたんですか?」
「ん?ああ、ラストサムライの話」
いちいさんたちのことは話せないのでそう言って笑うと、てんてんも衣織を見て吹き出した。
「あははっ……衣織、入学したての頃は天使とか妖精とかエンジェルとか言われてたのに、体育祭のあとからすっかりサムライになっちゃって」
「天使とか妖精とかエンジェルって……ほぼほぼ天使じゃん」
「あははははっ、ホントだ」
てんてんは本当におかしそうに笑った。
もー……天使はてんてんだよ!可愛いんだからー。
「夏休みにこんな激変したからついたあだ名かと思ったって話してたんだよ」
衣織を親指で指しながらそう話すと、てんてんはまた顔をくしゃくしゃにして笑った。
「あははっ……あれだけバイトしてれば、ムキムキになってもおかしくないかなって思いますけどね」
「へー……てんてん、衣織のバイト知ってるの?」
「はい。あ!ばっつん先輩、衣織からプレゼントもらいふぁふぃふぁふぁ?」
衣織がものすごい速さで、てんてんの口を手でふさいだため、最後の言葉はモゴモゴしてたけど……多分……『衣織からプレゼントもらいましたか?』だと思う。
……え?何も貰ってないけど……プレゼント?
「てんてぇぇぇぇん!」
「プレゼントって何?」
てんてんの口を塞いでいる衣織の腕を掴んでそう聞くと、衣織は口を尖らせながら、てんてんの口を離した。
てんてんは衣織から逃げるように、オレの背中に回ってきて、衣織にワーワー妨害されながらも、衣織が夏休みにバイトをガツガツしていたのは、オレの誕生日プレゼントを買うためだったってことと、それなのに、誕生日の話が出来ないから、プレゼントは渡せないと言っていたことを教えてくれた。
てんてんは、衣織が恥ずかしがって、オレに誕生日プレゼントを渡せないでいるようだって言ってたけど……衣織がオレに誕生日の話が出来ないのは多分、照れているからじゃない。
オレの誕生日に何があったのか、きっと衣織は……知ってる。塩紅くんが転校したのを知ってたんだから。
オレの誕生日に、塩紅くんが自分で手首を切ったのを知ってたら、オレに誕生日の話が出来ないのもわかる。
あれからオレだって、皇に塩紅くんの話が出来ないでいるし……。
「てんてん、ありがと。あとで絶対もらっておくから」
そう言って、てんてんに頼まれていたプリンターのインク代を渡すと、てんてんは『はい、ぜひ。良かったね?衣織』とニッコリしながら、会計室を出て行った。
「てんてんに話すんじゃなかった」
「いい友達じゃん。お前が照れてると思って、口添えしてくれたんだろ?」
「悪気のないああいうお節介が、一番厄介だよ」
衣織は小さくため息を吐くと、自分のカバンから小さな包みを出して来て、オレに差し出した。
「もうバレちゃったし……もらってよ。ホントはさ、雨花には、すーちゃんに負けないくらいすんごいもん贈りたいって思って、がっつりバイトしてたんだけど……かまちょが、あんまり高価な物は贈らないほうがスマートだっていうから……これにした」
オレが手を出さないでいると、衣織は包みを開いて、白い犬のマスコットがついたストラップを取り出した。
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