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知る知る見知る⑤
皇の指と唇が、オレの体をなぞっていく。
皇に押し倒された瞬間にはもう、気持ち良くしてもらえるって期待を隠しきれずに、下半身が反応していた。
「真の名のもとに下された命令に、抗うことは出来ぬ」
そう言いながら皇は、オレのズボンに手をかけた。
ふるふると何度も震えるペニスは、皇の熱くて大きな手で、下着の上からそっと包まれた。
「んっ!」
ただ手を置かれただけで、かぁっと体が熱くなる。
皇は、そこら中に何度もキスを落としながら、オレのシャツの中に手を入れた。
乳首にそっと触れてくる指先は、相変わらず熱い。
皇の腕を掴んで、すがるように見上げると、口端を上げた皇が、ソファにドカッと座ったあと、ひょいっとオレを抱え上げた。
背中から包むように、オレを自分の足の間に座らせた皇は、プチプチとオレのシャツのボタンを外しながら、本当の名前を知られるというのは、怖いことだと話し始めた。
呪いなんてものが流行っていた時代から、呪い除けのために本当の名前は明かさないって家が増えたようだと、皇が耳元で囁いてくる。
呪いっていうのは、本当の名前を知られないとかからないんだそうで……。
だから、旧家と呼ばれる家の人間が、本当の名前を呼ぶのを許すってことは、その人を本当に信頼している証でもあり、その人に支配されてもいいってことを意味するって……。
ってことは……皇は、オレに支配されてもいいって……こと?
そう思ってバクバクしていると、鎧鏡家は、サクヤヒメ様からのご加護があるわ、占者様が日々呪詛除けってもんをしてくれているわで、本当の名前を知られたところで、何も怖いことはないのだと、オレの気持ちの盛り上がりをわかっているかのようにそんな説明をしてくるから、一気に気持ちが盛り下がった。
「呪いなぞ恐るるに足らず。だが……真の名のもとに下された命令には、従わざるを得ぬ。そう教えられた」
ボタンが全て外されたシャツを開いて、皇の熱い親指の爪先が、オレの乳首をカリッと弾いた。
「っん……ふっ……」
「ゆえに……お館様も御台殿も、誠、従わせたい時だけ、余を”皇”と呼ぶ」
皇の足の間で腰が揺れる。
皇はまた、オレのズボンに手を突っ込んで、下着の上からそっとペニスを包んだ。
皇は、本当の名前を知られた鬼が、悪さをしなくなったっていう昔話や、名前を呼ばれて返事をすると、ひょうたんに吸い込まれてしまう話があるように、名前っていうのは、ものすごく重要なものなのだと、相変わらずオレの乳首を爪先で弾きながらそんな話を続けた。
本当の名前が大事っていうのは、わかったし、皇を人前で皇って呼ぶなって言ってた理由が、今ようやくわかったんだけ、ど……。
そういうこと、もっと早く教えといてよ!バカっ!
でも……オレが皇を”皇”って呼んでたって、オレの言うことなんか、聞いてくれたことあった?
……あった?かな?
気持ちよさで頭がふわふわして、深く考えられない。
「も……っぅ……オレ、も……はっ……お前のなま、え……呼ばない」
オレが、鎧鏡家の若様である皇を、”皇”って呼んでることは、今の話を知ってる人からしたら、ホントにびっくりすることだったんだろう。
そうだ。何回もびっくりされてたよね。
オレが皇の名前を呼んでいることに、びっくりしていた人たちの顔が、どわーっと頭に浮かんできた。
「そなた……衣織は今更呼び名を変えられぬと申したに、余の呼び名は変えられるのか?」
オレのペニスを包む皇の手に、ほんの少し力が入った。
それだけでオレは、ビクリと体を揺らした。
「だ……って……」
「余が許した。そのままでおれ。余の名を呼び……命じよ」
皇は、オレの首筋から耳を唇でなぞり、乳首を強めにこすってくるのに、ペニスを下着の上から包み込んでいる手は動かさない。
「余の名を呼び、命じよ」
もう……ホントこいつ……意地悪だ。
「す、めらぎ……」
オレのペニスを包むだけで動かない皇の手に、手を伸ばした。
皇は『ん?』と、耳たぶを噛んだ。
「んっ……あ……触っ……て……」
くっと皇の人差指を引っ張ると『御意』と言いながら笑った皇の手が、オレのペニスをぐっと擦り上げた。
「んんっ!」
このあと、もう無理っていうほど触られて……めちゃくちゃ恥ずかしいことまでさせられて、皇の名前を呼んで『やだ』って言ったのに、皇はやめてくれなかった。
真実の名のもとに下された命令は絶対とか、嘘じゃん!皇をそう非難すると『聞こえなかった』とか、しらばっくれやがった。
こーいーつーはぁっ!
結局、真実の名のもとに……とかいう話も、実際こいつには何の効力もないんじゃん!
まぁ、でも……。
だったらオレはこれからも……お前を”皇”って、呼び続けても、いいよね?
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