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知る知る見知る⑥

✳✳✳✳✳✳✳ 「返礼はしたか?」 服を着るオレの隣で、皇はオレの携帯電話を持ち上げてそう聞いてきた。 「え?」 「これの返礼だ」 携帯電話カバーに取り付けた白い犬のストラップを、皇はツンっと指で弾いた。 「え……ううん。お返しは絶対しないでって言われたから……」 「そうか。では余から何か返しておこう」 「え?」 ネクタイを締めようとした手を止めて皇を見ると、皇はオレの髪をサラリと撫でた。 「そなたは、余のもの」 皇が、髪を撫でながらオレの頭にキスをした。 「そなたが受けた厚意への返しは、余が致す」 何か……そういうの……何か……嬉しい。 「……ん」 「そなたに好意を抱く衣織からの贈物が、ここにあるのは面白くない。……が、そなたがこれを無下に扱うような人間であれば、余はそのほうが心苦しく思うであろう。……大事にしてやるが良い」 「……うん」 小さく返事をしたオレに、皇はふっとキスをして『衣織に何を返してやるか』と、呟いた。 「あー……何か、食べ物とかじゃ……おかしいかな?衣織、御目付役さんが付いてるんだって?その人の分まで食費を稼いでるって、言ってたから」 「ああ、そうか。では何か腹の足しになる物を返してやろう」 「うん。……皇?」 「ん?」 「……ありがと」 「あ?」 「これ……大事しろって言ってくれて」 皇から携帯電話を受け取ってストラップを揺らすと、皇は『手放しで許したわけではない』と、携帯電話を握るオレの手を掴んだ。 「え?」 「衣織にそれ以上何も許すでない」 掴まれた手をグッと引かれて、皇の胸に抱きしめられた。 「だが……そう言うたところで、そなたの自衛能力は皆無だ」 「はぁ?!」 自衛能力皆無ぅ?! オレが反論しようとすると、耳元で皇がふっと笑った。 「それがそなたの良いところでもあろう。そなたは余のもの。余が……そなたを誰にも触れさせぬ」 「……ん」 恥ずかしくて、皇の胸に顔を埋めた。オレきっと……今……顔、真っ赤だ。 皇は、何度も『顔を見せよ』と言ってきたけど、恥ずかしくて顔を上げられるわけがない。 「顔を見せよ。……青葉」 ”青葉”って呼ばれたことに驚いて、顔を上げた途端、キスされた。 これ……今までも何度かあったパターンじゃん。恥ずっ! 「どうだ?真の名のもとに下された命令には、抗えぬであろう?」 嬉しそうに笑う皇の顔にさらに照れて、オレはまたしばらく、皇の腕の中で顔を上げることが出来なかった。 オレをギュッと抱きしめた皇は、そのあとはもう、顔を上げるようにとは言わなかった。 真の名のもとに下された命令は絶対なんて嘘じゃん!って思ってたけど……あながち嘘でも、ない……かも。 皇が、オレを『青葉』と呼ぶ意味を知った今……さらにそれは、嘘じゃなくなっていくんだろうな……とか……思った。 皇に、衣織からストラップをもらったと話した翌日、朝から会計処理の引継ぎをするため会計室に入ると、先に来ていた衣織がオレを見るなり『雨花、言ったでしょ!』と、口を尖らせた。 「は?」 何を?朝イチで何を怒ってるんだ?こいつは。 「夕べ、うちのせまーいアパートに、すーちゃんから俵で米10俵届いたんだけど!」 「……へ?」 皇から、たわらでこめじゅっぴょう? ……俵で米10俵?! 「雨花に贈ったプレゼントのお返しだっつって!」 「……あぁ」 言ったでしょって……皇に誕生日プレゼントのことを言ったでしょ……ってことか。 確かに、衣織へのお返しは食べ物がいいんじゃないか、とは言ったけど……。 俵で米10俵って……どんだけだ?米俵自体見たことないからわかんないけど……。 「ストラップ一つで米10俵だよ?腹立つー!夕べ、米俵に占拠されて、寝る場所なかったんだから!」 「はぁ」 そんなこと言われても……。 「雨花へのプレゼントのお返しをすーちゃんが送ってくるとか!雨花、すーちゃんの嫁に決まったわけ?!」 「え?いや……」 「だったら!」 椅子から立ち上がって、オレに向かって来た衣織は、すぐに『うわっ!』と、顔をしかめて足を止めた。 へ? よく見ると、衣織の目元に光が当たってる。 お?何? 光のもとをたどって外を見ると、反対側の校舎の屋上から、鏡か何かで、衣織の顔をめがけて、太陽光を反射させている人が見えた。 ここからじゃ顔までは見えないけど……あのガッシリしたシルエットって……誓様? 「ちっ……かまちょめ!」 え?かまちょ?え?あっちの屋上にいる人、誓様じゃなくて、かまちょさん? 「……頭、冷やしてくる」 衣織は会計室を出て行った。

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