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知る知る見知る⑭

シロを東屋に寝かせて、そのまま和室に戻ったオレたちは、何度も交わって……夕飯はどうするかと、控えめに声を掛けてくれたいちいさんに起こされるまで、昼も食べずに二人揃って寝てしまっていたらしい。 「皇……」 まだ頭がぼーっとしている。 目をつぶったまま、隣にいる皇の手を握った。 「ん?」 皇は、オレの手をギュッと握り返して、あくびをした。 皇があくびするとか……レアだなぁ。 そういえば、まだ皇に伝えてなかったっけ。 オレ……もう大丈夫だよって。オレにとって大事なこと、思い出せたから。 「もう、大丈夫だから」 「ん?」 「もう、怖くないから。衣織ファンの子たち、消すとか言わないでよ」 衣織は塩紅くんみたいな真似はしないって、皇の言葉を信じてる。 衣織ファンの子たちのことだって、確かにオレが心配したって、どうにもならないことなんだ。 オレは、また塩紅くんみたいなことが起こった時、自分がその”犯人”になるんじゃないかって、怖がってた。 だけどもう、怖がらない。 怖がる必要なんかない。 塩紅くんの家に行った時、母様が誰一人責めなかったみたいに、犯人探しはしなくていい。 それより、オレは大事なものを守ることだけ考えてよう。 皇を、守ることだけ。それが一番大事なこと、だよね? 「……そうか」 オレの手を握ったまま、皇がオレを見下ろしている気がして目を開けた。 目を開けた瞬間、口端を上げる皇と目が合った。 やっぱり、見られてた。 ふっと笑いながら、皇はオレの頬をするりと撫でた。 ……かっこいい。 繋いでいる手をギュッと握ると、皇はまたふっと笑って、オレにキスした。 ……恥ずっ。 だって今のキスは……オレが……ねだった……みたいな、もん、だし……。 恥ずかしくなって、空いている手で顔を隠すと『ん?』と、楽しそうな皇の声が、オレの耳を直撃した。 「何でもない!ごっ……ご飯!早くご飯行くよっ!」 オレは立ち上がって、繋いだままの皇の手を引いた。 ふりほどいても、良かったのかもしれないけど……だって……離したく、なかったから……。 「その恰好でか?」 「は?」 ふと視線を落とすと、オレってば、肌襦袢を羽織っているだけで、パンツも履いていないままのほぼ全裸じゃん! 「どわぁっ!」 今度こそ皇の手を離して、急いでパンツを履いて、着物を着た。 目の前の皇がきっちり着物を着てたから、自分もすっかり着物を着ているつもりになってた! うおおおおっ!恥ずっ! 「何でお前だけきっちり着物着てんだよっ!」 「そなた一人が寝入っておる間、暇だったゆえ着直した。そなたにも着せてやろうと思うたが、そのうち余も寝入っておったようだ」 「……」 ありえない!着物を着せてやろうと思っている間に寝入るとか、絶対ありえない!着せる気なんかなかったって!絶対こいつ、そんな気なかったってー! 文句を言ってやろうと思ったら、オレのお腹が、ぐーっと鳴った。 恥ずっ! 皇は口端を上げながら、和室の電話の受話器を取ると『今すぐこちらに夕餉を運べ』と、それだけ言って電話を切った。 「そなたは誠、口以外は全て素直に出来ておる」 「はぁ?!」 皇が、怒ったオレを見て、声を上げて笑った。 オレは、そのまま怒った顔をしてはいたけど……ホントはすごく、嬉しかったんだ。 皇、オレね?最初はお前のこと、マネキンみたいって思ってたんだ。 表情の変わらない、感情のわからない奴だって、思ってた。 だけど、いつからか、そんな風に笑うお前を知っちゃったから……。 もう、マネキンみたいだったお前には、戻って欲しくない。 本当は、そんな風に表情を崩したらいけないって言われてるのも知ってるけど……誰にも、言わないから。 言わないから……オレの前では、そうやってずっと、笑ってて……欲しいよ。

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