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嫉妬③
ぐったりっていうかガッカリっていうか……皇におぶわれたまま和室に戻って、すぐに風呂だとか言ってた割には入らせてもらえず、そのまま……その……シて……そのあとようやくお風呂に入って、皇と一緒に布団の上でゴロゴロしながら、学祭準備のことだとか、これからの話をしていると、当たり前のように天戸井の誕生会がもうすぐだってことを思い出した。
「あ!中間テスト始まる前に、天戸井の誕生会があるじゃん!」
皇、しばらく誰にも渡らないとか言ったけど、その日は天戸井に渡るんだろ?渡らないわけがない。
ちょっとムッとすると、皇は『ああ』と、何かを思い出したように体を起こして、オレを見下ろした。
「そなた、その日はくれぐれも誓か梅の側におれ。良いな?」
「は?」
「あ?」
「何の話?」
「あ?楽の誕生会の話であろう?」
「え?うん。え?誓様か梅ちゃんの側にって……何で?」
天戸井の誕生会に、何で誓様か梅ちゃんの側にいろとか言ってんの?
訳がわからないオレに皇は『楽の誕生会を仕切るのは鎧鏡家ではなく、楽の父親だ』と、話し始めた。
「え?天戸井のお父さんが?」
天戸井のお父さんが誕生会を仕切ると聞いて『候補になったからには父と思うな』と言った父上の言葉を思い出した。
今、オレの誕生会を父上が仕切るとか、絶対にありえない。
だけど、天戸井のお父さんは、天戸井の誕生会を仕切るの?そういうの、有りなんだ?
オレがさらにわからないという顔をしていたからか、皇は、天戸井の実家はしらつきグループの映画配給会社で……と、いう話をし始めた。
「えっ?!しらつきグループの映画配給会社って……白映 ?!」
駒様に鎧鏡家のことを教わる”奥方教育”の最初の最初のほうに、しらつきグループの一覧表みたいな、分厚い資料を貰った記憶が蘇った。
白映もしらつきグループなんだ?すごいな鎧鏡家……なんて、思ったんだ、その時。
それくらい、白映っていうのは、日本人なら誰でも知ってるような有名な会社だ。
映画の配給や制作だけでなく、テレビ制作なんかもやっていて、オレが好きだった特撮ヒーローものの番組も、確か白映が作ってたはず!
「そうだ。白映の社長が楽の父だ」
「うっ、わ……」
マジか。天戸井、あんな有名な会社の御曹司だったんだ?あれ?そう言えば、白映の社長夫人って、元女優さんじゃなかった?なんかのニュースでいつか聞いたことがある!
ってことは……天戸井のお母さん、元女優さん?!
天戸井があんな外見なの、めちゃくちゃ納得!
学校で天戸井がそんなうちの御曹司とか、聞いたことなかったのに……。
って、まぁあの学校、ものすごい御曹司揃いだから、わざわざ騒いだりしないのか?
言われてみれば、白映の御曹司と同じくらい、田頭だってサクラだってかにちゃんだって、すごい家の御曹司だった。
それにしたって……ビックリだよ!
練り歩きでおひねり撒いたり、お団子をたくさんふるまったり……あんな大きな会社の御曹司なら、それも全部納得だ。
白映の仕事は、人との繋がりが大事ってことで、天戸井は小さい頃から父親に連れられて、色々な集まりに参加してきたらしい。
皇の嫁に決まらなければ、天戸井は白映を継ぐことになるらしいから、その繋がりは断ちたくないという理由で、嫁になることが決まるまでは、父親の仕事の手伝いをすることを許可して欲しいと申し出があり、皇がそれを許可したのだそうだ。
天戸井の誕生会は、天戸井が小さい頃から、毎年、著名人を招いて盛大に開かれてきたという。
『次期社長』として、なるべく天戸井の顔を売っておくという意味合いでは、大事な仕事の一環ということで、今回このような形で許可が下りたんだそうだ。
「全然知らなかった。誰もそんなこと言ってなかったし」
あげはとか、一番に騒ぎそうなもんなのに。
「楽の誕生会は、警備も含め、楽の父親が全てを仕切る。余が動いては、楽の父親への不信を意味するゆえ、そなたらの身の安全も含め、全て楽の父親にゆだねることになる」
「ああ、そういうこと?っていうか、身の安全って……何の心配してんの?」
あの白映が、著名人を呼んで開くパーティーでしょ?著名人って、俳優さんとか、女優さんとかなんじゃないの?そんな有名人がゴロゴロいる中で、わざわざオレたちが狙われるわけないじゃん。何の心配してんだよ。
皇にそう言うと、盛大にため息を吐かれた。
「そなたの呑気さには、毎度腹が立つ」
「はぁ?」
「いや……そなたに腹を立てても無駄であった。そなたはせいぜい楽しむが良い」
「何だよ、それ!ホンット殿様気質のくせに、変なとこ心配性だよね、お前」
ムッとした皇は『余とてこのような心配をするとは思うてもなかった』と、オレを睨みながら、不機嫌な顔のままオレにキスした。
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