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嫉妬⑧

ふっきー、すごい!と思ってたら、今度は梅ちゃんが知らない人に声を掛けられた。 梅ちゃんに声を掛けて来た人は『全国大会』だとか『新記録』とか言っている。 そっか!そういえば梅ちゃんって、何かの大会の短距離走だったかな?……で、優勝したりしてるんだよね?確か。梅ちゃんも有名人だったのか!うっわ! 気付くと、こっちを見ながらひそひそ話している人たちがたくさんいる。 ふっきーも梅ちゃんもすごいなぁと思いながら、そんなたくさんの視線に緊張したからか、トイレに行きたくなって来た。 誓様に、トイレに行くと伝えると、一緒に付いて来ると言うので、大丈夫だと言って、逃げるようにその場をあとにした。 トイレに向かいながら皇のほうをチラリと伺うと、皇もこちらを見ている……ような気がした。 遠いから、ホントに見ていたかはわからないけど。 トイレから出て、みんなのところに戻ろうと歩き始めると、女の子が二人、タタッと小走りでやって来て『あの』と、声を掛けて来た。 「はい?」 二人共、どこかで見たことある気がする。どこでだったかな? そんなことを考えていると、一人の女の子が『どちらの事務所の方ですか?』と、オレに聞いてきた。 どちらの事務所のかた?……何のこと? 「え……」 「新人さん、ですか?」 「え?」 新人さん?何の? 「これからデビューする方ですか?」 これからデビュー?え?何の? オレがきょとんとしている間に、他にも女の子が何人かやって来て『モデルさんですか?』とか『俳優さんですか?』とか……って、え?オレ、に聞いてるの?まさか!オレがモデルとか俳優なわけないじゃん! っていうか、女の子に囲まれるとか、いつぶりだろう? その状況にめちゃくちゃ緊張する! 何とか『違います』って返事をしたのに、女の子たちには聞こえなかったようで『え?何?何?』と、さっきよりも距離を詰めてきた。 うわっ!どうしたらいいの? おたおたしていると、突然後ろから肩を掴まれた。 「うわっ!」 皇?! 皇が助けに来てくれたのかと振り向くと、顔をしかめた衣織が、オレの肩を掴んでいた。 「いお……」 「この人、そういうのと無縁なんで。失礼します」 衣織は、女の子たちにぺこりと頭を下げると、オレの手を取って、急いでその場からオレを連れ出した。 衣織に手を引かれて歩いている間にも、色々な人が『あの!』とか『ちょっと!』とか声を掛けて来たけど、衣織は立ち止まらず、ずんずん歩いて行く。 「衣織!どこ行くんだよ!」 みんなのところに戻らなくちゃ……と思って、みんなのほうに視線を移すと、さっきみんながいた場所に、結構な人だかりが出来ているのが見えた。 もしかして、みんな、あの人だかりの中にいるの? 「あそこに帰りたいの?」 オレの視線を追った衣織は、そう言ってオレを軽く睨んだ。 その時、後ろから『失礼致します』と、いう声が聞こえて振り向いた。 「あ……」 駒様だ。 「あぁ、駒。久しぶり」 衣織は駒様にそう言って、ニコリと笑った。 「はい。お久しぶりでございます」 駒様も、衣織に向かってニコリとしたんだけど……駒様のこの顏……完全に”営業スマイル”だ。 「で?何?」 「雨花様は体調が良くありません。本日はこれにてご帰宅なさるようにと、若様よりの伝言でございます」 「えっ?」 オレ……てんで元気ですけど。 驚いているオレの腕を、駒様がポンッと軽く叩いた。 「天戸井様へのご挨拶は、私よりしておきますので。さぁ、雨花様」 「え……あ、はい」 どういうことかわからないけど、帰ってもいいなら、帰りたい。 駒様は『では失礼致します』と、にこやかに衣織に挨拶をすると、強くオレの背中を押した。 「駒、そういうことなら、僕が雨花を送るよ」 「えっ?」 何でお前が? 「雨花をこの場から外に出すには、駒より僕のほうが安全かつスムーズだと思うけど?」 駒様は、そこでようやくいつもの渋い顔に戻った。 「しかし……」 「すーちゃんの上臈である駒が雨花を送ったりしたら、後々面倒なことになるんじゃないの?ここは、部外者である僕が余計な気を回して、具合が悪くなった雨花を送ったってことにしたほうが、丸く収まると思わない?」 「……」 駒様が無言になったのを了承したと解釈したのか、衣織は『さ、行くよ』と、オレの背中を押した。 そのままオレは、駒様に止められることなく、衣織に背中を押されて会場をあとにして、衣織のうちの車に乗せられた。 衣織は『鎧鏡家に向かえ』と、運転手さんに声を掛けたあと『すーちゃんちに行くの久しぶりだなぁ』と、オレにニッコリ笑いかけた。

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