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嫉妬⑩
天戸井の誕生会の翌日から始まった中間テストを終え、ふっきーが二度目の舞を奉納した新嘗祭も終えた頃には、学祭の準備が半端なく忙しくなって、今まで何があってもこれだけは絶対パスしない!と、思っていたランチ当番を、一回パスすることになってしまった。
中間テスト前から渡りは止まっているから、本当は無理をしてでも、皇とお昼ご飯を食べたかったのに……。
ランチ当番の時にする……その……ヤラシーことを期待してたわけじゃなくて!……皇と二人きりになること自体、もう二週間以上、ない……から。
「はあ……」
切ない。
「ため息深いよー!ばっつん!」
深くもなるっつーの。
のんきなサクラにちょっとイラついた。
サクラはいいよね。毎日田頭と嫌ってほど一緒にいるんだから。
「無駄に忙しいのも、あと2日だよ。学祭前日の土曜日、出るよね?」
「出たくないけど、出るしかないんだろ?」
「あははっ。だろうね。あ、そうだ。土曜日さ、お昼過ぎるようなら、お弁当持って来てね」
「は?田頭御用達のケータリングはどうした?」
「前日にどわーっと荷物搬入があるっていうのに、優雅にケータリング呼んでたら邪魔だろうって」
「……確かに」
お弁当を持って行くって言ったら、ふたみさんは喜んで作ってくれるだろうから、別にいいんだけどさ。
「っつーことで、よろしくね」
「ういー」
サクラはオレの頭をポンポンすると、忙しそうに生徒会室を出て行った。
11月1日 晴れ
今日は、学祭前日の土曜日です。
学祭前日ってことで、土曜日でも登校している学生が多い。
学祭前日の今日になって、お金が足りないとか、領収書を失くしたとか言ってくるヤツがいたり、明日使うおつりの準備だの何だの、とにかくオレは、朝、学校に着いた瞬間から、ずーっとバタバタ忙しかった。
2時過ぎに、ようやくお昼ご飯を食べる時間が出来て、衣織と一緒にお弁当を持って、本館5階の会議室に向かった。
生徒会室じゃ、ゆっくりご飯なんて食べていられそうになかったからだ。
「あれ?ふっきー?」
本館5階に向かう途中、オレと同じような風呂敷包みを抱えたふっきーが、前を歩いているのが見えた。
「ああ、雨花ちゃん」
「来てたんだ?え?今からお昼?」
「そう。教室じゃ食べていられないから、会議室使わせてもらおうかと思って出て来たんだ」
「お!じゃあ一緒に食べようよ!」
右手にぶら下げていたお重弁当を軽く持ち上げてふっきーに見せると、ふっきーはニッコリ笑って『うん』と、頷いた。
「楽様の誕生会以来だね?藍田くん」
お弁当を開きながら、ふっきーは藍田に笑いかけた。
「あの日は、すれ違ったくらいだけどね」
「あははっ。そうだね。誕生会っていえば……改めて雨花ちゃんのすごさを知ったね、あの日」
「は?」
「ん?雨花ちゃん、あの日先に帰ったでしょう?そのあと、何人か女の子に聞かれたよ?一緒にいた綺麗な男の子、どこですか?って。芸能人がゴロゴロいたあの会場で、雨花ちゃんが目についたってことでしょ?」
「ぅえっ?!嘘!」
「本当だよ。すごいよね」
「すごいって……ふっきーのほうがすごいじゃん!なんちゃらオリンピックの話で、おじさんたちに囲まれて……」
「いや、どうせ囲まれるなら、女の子のほうがいいでしょ」
「えっ?!」
「え?何?」
「え……女の子に囲まれたほうがいいって……」
「え?おじさんより、女の子に囲まれたほうがいいでしょ?」
「ふっきー……男が好きなんじゃないの?」
真剣に聞いたオレに向かって、ふっきーは唾を飛ばす勢いで吹き出した。
「ぶはっ!やめてよ!まさか!」
「え?だって、皇は……」
「ああ、すめだけは特別。僕は別にゲイってわけじゃないよ?すめの奥方様に選ばれなかったら、鎧鏡一門として、子孫繁栄に貢献しないといけないしね」
嘘!ふっきー、女の子と結婚する気あるの?
「確かに子孫繁栄は、選ばれなかった人間の使命だよね」
衣織はそう言って、頷いた。
「え?」
「ん?僕も選ばれる側の人間だから、同じだよ。当主に選ばれなかったら、子孫を残すための結婚をしないといけないって言われてる」
「うえっ?!」
衣織も……当主に選ばれなかったら、普通に女の子と結婚するって、こと?
散々オレに好きとか言ってるこいつまで、実はゲイじゃない?
オレが驚いて固まっていると、衣織は『そのためにうちは男女両方と筆下ろしの儀式があって……』と、平然と話し始めた。
「え……ふで、おろしの、儀式?」
ふでおろしって……あの、筆下ろし?
「え?知らない?あれ?鎧鏡家もあるよね?すーちゃん、やったって聞いたけど」
「え……」
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