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学祭騒動再び~一日目・動揺~①
11月2日 晴れ
今日は、神猛学院の学祭一日目です。
どうしてこんな重要な日の前日に、あんな話を聞いちゃったんだろう。衣織の勘違いならいいのに。
でも、ふっきーも当たり前のように衣織の筆下ろしの話に頷いてた。
本当なんだ。皇の、筆下ろしの相手は駒様って話……。
その話を聞いて、眠れなくなるくらいモヤモヤしてるオレがおかしいの?だって、ふっきーはケロッとしたもんだった。
「あ」
ふっきーが全然気にしてないんだから、皇は駒様を嫁に決めてるわけじゃないってこと、なんじゃないの?
次期当主が上臈と筆下ろしの儀式をしたってだけの話で……。
鎧鏡家だし、そんな儀式がないほうがおかしい、とは、思うけど。
「……」
だけど……駒様は皇にとって、ただの上臈ってだけじゃないじゃん。
初恋の相手だよ?
初恋の相手に、筆下ろし、されたってことだよ?
そんな人が、そのあともずっと、一番近くにいてくれてるんだよ?
「……」
ダメだ。
夕べからずっと同じことばっかり、グルグル考えてる。
ふっきーが何とも思っていないんだから、皇は駒様を嫁に決めてるわけじゃないとは思うけど……オレがグルグルしてるのは多分、嫁がどうとかじゃない。
皇にとって、駒様がどれだけ重要な存在か思い知らされて、もうどうにも自分を励ませなくなってるんだ。
皇が嫁を決めるまでのあと一年ちょっとで、どうやったら、駒様が今まで積み上げてきた皇との時間を上回ることが出来るっていうんだよ?
「無理じゃん……」
どう頑張ったらいいの?頑張り方さえわからない。
「はぁ……」
次期当主は、好き嫌い言ったらいけないとかいっつも言ってるくせに……。
初恋の話とか、してるんじゃん。
「……嘘つき」
気持ちはぐちゃぐちゃのまま、流れ作業のように朝の支度をして、出されたご飯を無理矢理流し込んだあと、学祭準備のために、いつもより一時間早く学校に向かった。
落ち込んでいる暇もなく、バタバタと学祭の準備は進み、あっという間に開始時間になった。
オレたち生徒会役員は、式典の時しか着ない生徒会専用式服に着替えて、開会式に臨んだ。
開会式のあと、生徒会役員は、学祭実行委員のメンバーと一緒に、見回りと審査を兼ねて、各クラスの"出し物"を見て回ることになっていた。
一番点数の高かったクラスには、学祭実行委員会から賞品が贈られることになっている。
「とりあえず旧生徒会役員は、基本的に新役員と一緒に行動して、引継ぎの完了を目指すようにな」
田頭にそう言われて改めて気が付いたけど、明日が生徒会役員としての最後の日なんだった。あまりに忙しくて忘れてた。
衣織に会計の引継ぎをするのは、明日が最後なんだ。
学祭が終わったら、受験組の三年生は、感染症予防と受験勉強のために、ほとんど学校に来なくなる。
「せんぱーい!早く行かないと全部回れないよ?」
衣織が審査用紙を挟んだ黒いボードをオレに差し出した。
「あ……そうだな」
衣織と一緒に、二年生のブースから順番に回って行くことにした。
「あのさ、雨花」
「ん?」
「昨日のこと……気にしてる?」
「え?」
「筆下ろしの、さ。でもね?儀式なんだから、次期当主としてやらなきゃいけないことだったんだよ?僕も……すーちゃんも……」
「わかってるよ」
頭ではわかってる。
「ホントに?何か……疲れた顔してるから……」
夕べ寝た記憶がないし……。だからって、寝ずに何をしてたのか、それすらわからないけど。
頭では気にしなくていいなんて思ってても、体が勝手にそんなことになるのは、自分でもどうにも出来ない。
「明日で役員の引継ぎが終わりだから、やり残したことがないか考えてたら、ちょっと寝不足なだけだ」
ついさっき、明日で引継ぎが終わりなのに改めて気付いたっていうのに……嘘吐いてごめん、衣織。
「えっ?僕のこと、考えてたってこと?」
「お前のことじゃない。会計のことだ」
「ちぇっ。……でもさ。引継ぎは終わりかもしれないけど、わからなかったら聞きに行っていいでしょ?」
「へ?うちまで?」
「え?」
「ん?学校じゃ聞けないだろ?」
「何で?」
「学祭が終わったら、オレ、そうそう学校来ないぞ?」
「はぁっ?!何で?!」
衣織は、受験組の三年生が、学祭あとに学校に来なくていいってことを知らなかったらしい。
オレは衣織にその話をした。
「雨花も……もう学校来ないの?」
「んー、そうそう来ないかな。あ、でも、何かわからないことがあったら連絡してこいよ。来られたら学校来るし。んじゃ、ここから見て行くか」
2年A組の看板を指しながら衣織のほうを振り返ると、真面目な顔で立ち尽くしている衣織と目が合った。
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