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学祭騒動再び~一日目・動揺~④
衣織は化学部から材料を調達し、一年と二年から、修理できそうなやつを連れてきたという。
「化学部だって色々使うはずなのに、よく材料出してくれたね」
ふっきーが嬉しそうにそう言うと、衣織は『自業自得ってやつかなぁ』と、腕を組んだ。
「自業自得?」
首を傾げて衣織を見ると、衣織は潜めた声で『この前先輩、今年のお正月に、化学部がボヤ騒ぎ起こしたって言ってたじゃん?うちの化学部って結構有名みたいでさ、そんな不祥事を起こしたことがバレると名前に傷がつくからって、学校がそのボヤ、もみ消したんだって。その話を化学部長に話したら、気持ち良く材料調達の手伝いをしてくれたんだよ』と言って、ニヤリと笑った。
「お前ねぇ」
何が気持ち良くだよ。完全に脅してんじゃん。
「あの手伝ってくれてる子たちはどうしたんだよ?」
「んー?一年はまぁ、僕が頼めば嫌っていうヤツいないし?二年の助っ人はるい先輩がどっからか連れて来てくれたみたい」
「……へぇ」
どうにもきな臭いけど……でもこれでうちのクラス、何とか参加出来るんじゃないの?!絶対無理だと思ってたのに。
「これでうちのクラス、参加出来るじゃん!」
喜んでそう言うと、サクラが腕を組んで口を尖らせた。
「ルーブ・ゴールドバーグ・マシンは大丈夫そうだけど、大久保の穴は誰が埋めるのさ!」
そっか。大久保、インフルエンザ疑惑で休みなんだっけ。大久保って、そんな重要な役回りなのかな?
「大久保って、ショー担当だっけ?何する予定だったの?」
サクラは小さくため息をついた。
「ボクがデザインした服を着て、ショーに出ることになってたんだよ。大久保、すっごい細っそいじゃん?あいつの代わりにあのスーツを着られる奴なんて……って……いた!目の前にいる!」
サクラはオレの肩をガッと掴むと、大声で『みんな!いたよ!ばっつんなら、大久保のスーツ着られるじゃん!』と、叫んだ。
「は?!」
「あ?ばっつんが?だって大久保は……」
サクラの後ろから、口を挟んだ田頭の足を、サクラが思いっきり踏んだ。
「ぃだあぁぁっ!」
「大丈夫だって。ばっつんなら、ただボックス踏んでるだけで絵になるから」
「……は?」
ボックスふんでるだけって何?
「ばっつん、出てくれるよね?ボクたちにとって最後の学祭なんだよ?ばっつんはさぁ、優しいクラスのみんなのご厚意で、クラスの準備はほっとんど免除してもらってたよね?」
「うっ……」
これは……もう”出る”って言うしかないじゃん。”出る”一択じゃん!
「ばっつん、優しいみんなが一生懸命作り上げてきたショー、出ますか?出ませんか?」
「……出、マス」
「さすがばっつん!よーし!そうと決まれば、ショーに向けてリハ始めるよー!誰かばっつんに簡単にステップ教えてやって!」
「え?!ステップ?何?え?!」
オレはほとんど抱えられるように、第二体育館のステージ裏に連れて行かれた。
「ありえない!サクラにまたもやハメられた!」
うちのクラスのファッションショーは、ただ歩けばいいってだけのものじゃなかった。
音楽に合わせて、結構激しいダンスをしながら、サクラたちがデザインした服の機能性をアピールするっていうものらしい。
オレが着る予定の服はスーツらしいけど、スーツでこのヒップホップ系ダンスを踊って、機能性のアピールって……何の機能をアピールするっていうんだよ!
「っていうか、ばっつん、全然踊れるじゃん!」
「こんなところで役に立つなんて……」
「え?ダンス習ってたの?」
「んー……」
柴牧の父上と母様は、昔っからしょっちゅう二人で社交ダンスを踊っていた。
海外で生活することが多かったせいかもしれないけど、社交ダンスくらい踊れないと駄目だって、オレにも言ってて。
だからオレははーちゃんと一緒に、社交ダンスを習っていた時期があるんだ。
そこでダンスに目覚めたはーちゃんが、ヒップホップダンスまで習いたいとか言い出して、オレはやりたくないって言ったのに、無理矢理一緒に習わされたんだ。
でも習ってたの、二年間くらいかな?それがこんなところで役に立つとは……。
「とにかく全然大丈夫だよ。これなら大久保が踊る予定だった振付でいけるんじゃん?あと30分で覚えられる?ばっつん」
「はぁ?」
無理!って言ったのに、それから30分、びっちりダンスの練習をさせられた。
「ふっきー」
「ん?」
「あの……皇は?」
クラスに来たら皇に会うと思っていたのに、どこにも姿が見あたらない。
ダンスの稽古をようやく終えたあと、なんちゃらマシンの修理を完全に終えてホッとしているふっきーに声を掛けた。
「ああ……今日休みだって。駒様が倒れたらしいんだ」
「えっ?!」
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