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学祭騒動再び~一日目・動揺~⑤

駒様が倒れた?!何で?! 「すめは来場者に配る粗品につける熨斗紙の表書き担当だから、休みでも大丈夫だけどね」 いやいや、ふっきー、クラスの心配じゃなくて! 「駒様、どうして倒れたの?」 「ああ……うーん?何だろうね?僕が登校する時にうちの誰かが聞いてきた話だから、詳しくはわからないんだけど……とりあえず命にかかわる病気じゃないみたいだよ?」 「そうなんだ。はぁ……良かった。ビックリした。皇、駒様についててお休みってこと?」 「そうなのかな?もしかしたら、立ち往生してるのかも」 「立ち往生?」 「うん。駒様の指示がないと、本丸は上手く機能しないらしいから」 「え?」 「あははっ。そういう噂を聞いたことがあってさ。駒様がいないと何も出来ないなんて、本当だったら大変だよね。ま、駒様だとそれも何か真実味あるけど」 ふっきーはそう言って、いつもより楽しそうに笑った。 噂っていうか、本当なんじゃないの?それ。 だけど、それが本当でもただの噂でも、そんな噂が出るってことは、誰が見たって駒様は、皇にとってなくてはならない存在なんだ。 また胸がざわざわし始めた時、うしろからサクラに肩を掴まれた。 「ばっつん!とりあえず、お昼食べながら出来る限り巡回して来てよ。全然審査してないでしょ?」 「あ、うん。オレ、一クラスもしてない」 「だよね。まだ明日もあるけど、出来る限り今日まわっておいたほうがいいでしょ?」 「うん。わかった。衣織!行くぞ!」 さっきまで化学部長と何かを話していた衣織に声を掛けると、衣織は『ごめん!僕、そろそろ自分のクラスに行かないと』と、時計を見た。 「うわ、そっか。こっちの手伝いしてもらってたから……クラスのほう、大丈夫か?」 「うん、平気。とりあえず行ってくるから。戻れそうならすぐ合流する。連絡するね」 「わかった」 衣織は飛ぶように第二体育館を出て行った。 平気とか言ってたけど、あの様子だと平気じゃないんじゃないの? あいつ、自分のクラスで何を担当してるんだろう?本当に大丈夫なのかな?うちのクラスのゴタゴタ解決なんかしてたから、クラスのみんなに迷惑かけちゃったんじゃ……。 「衣織、クラスの模擬店のほう、結構仕切ってたらしいんだよね。1年A組、大丈夫かな?」 サクラが珍しく心配そうな顔をしていた。 「え?!」 そうだ!あいつ”ラストサムライ”とか呼ばれて、みんなから頼られてるくらいなんだから、クラスで重要な役割を持たされてるに決まってる。 それなのに……。 「うちのクラスにばっつんがいなきゃ、衣織も自分のクラスを放り出してまで、うちのクラスを助けてなかっただろうにねー」 「えっ?」 オレの、ため? 「よし!衣織を足止めしちゃった分、1年A組の審査、ちょっと加点してやろう!」 「オレも……ちょっと加味しとく」 「へぇ……ふふーん。ちょっと衣織にグラッときた?」 サクラは意地悪そうにニヤリと笑った。 「は?」 「んー。ばっつんは、けなげに側で助けてくれる衣織より、ここにいないがいくんのほうが気になるか」 サクラは『そんなもんだよね』と、高笑いすると『じゃ、お先に!』と言って、るいと体育館を出て行った。 「……」 皇のことが気にならないわけがない。 だけど……皇は今、倒れた駒様についてるんだと思う。 足止めされて仕方なく……とかじゃなくて、皇の、意思で。 塩紅くんの誕生日の時は、熱を出したオレのところに来た皇を、塩紅くんのところに戻さないといけないって思えたのに……。 今、倒れた駒様に皇が付き添っているのかと思うと……すごく……怖い。 駒様は、皇のそばにいるのが仕事で……皇が今、駒様と一緒なのは、いつもと同じ風景なんだろうけど……。 でも、違う。 今、皇が駒様に付き添っているとしたら、それはいつも二人が一緒にいることとは、全然、意味が違う。 こうなってみて初めて、オレは今まで駒様を、同じ皇の嫁候補として意識していなかった自分のバカさ加減に気が付いた。 皇より10歳も年が上だし、あの二人が並んでいても、若様と上臈っていう雰囲気だったから、何だかんだいっても、駒様を嫁候補として特別意識していなかったんだ。 だけど……駒様は、皇の初恋の相手で……皇の筆下ろしを、した人。 皇の、特別な人。 オレが倒れた時の、皇の必死な顔を思い出した。 駒様が倒れたって聞いた時、皇は、もっと慌てたのかもしれない。 「……」 オレは……いつでも候補の誰かと比べてる。 誰かと比べて、自分が皇にどれだけ大切にされてるか、確認してる。 衣織は、いつ二番になるかわからない一番なんていらないって言ってたけど……皇じゃなくてオレ自身が、いつも順番をつけたがってるんだ。 皇にどれだけ大事にされてるか、誰かと比べることで……推し量ってる。

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