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学祭騒動再び~一日目・動揺~⑥
「ばっつん、行かない?」
かにちゃんに声を掛けられて、ハッとした。
落ち込んでいる暇があったら、一クラスでも多く審査しておかないと!
オレも、かにちゃんたちと一緒に、第二体育館を出た。
今年は、一年が主に飲食系の模擬店を担当することになっている。
去年の学祭で、本格イタリアンの模擬店なんかが出ていたくらいだから、模擬店って言っても、普通の学校の模擬店とはグレードが違う。
とりあえず、衣織が大丈夫だったか確認しようと、かにちゃんとてんてんと別れたあと、一年A組に向かった。
一年のクラスが並ぶ廊下に入ったところで、背中にコツンっと何かが当たる感覚があって、足を止めた。
何だろう?
後ろを見ると、足元にくしゃくしゃに丸められた紙が落ちていた。
これが背中に当たったのか?
あたりを見回すと、学祭らしくざわざわと、何人もの生徒が行き来している。
紙を投げて遊んでたのかな?まったくもう……。
拾ったくしゃくしゃの紙をゴミ箱に捨てようとしたその時、領収書をなくしたと言って、泣きついてきた生徒がいたのを思い出した。
この紙が必要な書類だったら、誰かが困るかもしれない。
そう思って、くしゃくしゃの紙を開いてみた。
『衣織くんとお前は釣り合わない』
広げた紙に、そう書いてある。
え……何、これ……。
オレ、宛て?
ドキドキしていると、また後頭部に何かをぶつけらた。
「いっ!」
とっさに振り返って”犯人”を捜しても、そんな素振りをしている生徒は見当たらない。
また足元に転がっている紙を拾って広げると『衣織くんちの金目当てだろ』と、書いてあった。
「はぁ?」
金目当てって何だよ!くっそ!誰だよ!正々堂々、顔を見せろ!
そういえば……衣織のファンが、オレのこと目の敵にしてる……みたいなこと、皇もサクラも、言ってた。
これ……そういうこと?
キョロキョロしたオレの後頭部に、今度は何個かいっぺんに、丸めた紙が投げつけられた。
その中の一つを広げると『お前と一緒にいると衣織くんが性格悪くなる』と、書いてあった。
「……」
……んだとおおお!ホンット、腹立つ!
イライラしながら紙くずを全て拾って、近くのゴミ箱に投げつけるように捨てた。
今、犯人探しをしたところで、どうせ出て来る気はないだろうし……オレは、そんな卑怯な奴らの相手をしている暇はないんだよっ!
無視!無視!と思って歩き出してすぐ、後頭部に、さっきより強い衝撃を受けた。
「いっ……た」
カツンっと音を立てて床に落ちたのは、丸めた紙じゃなくて、どこにでもありそうな鉛筆だった。
しかも先が尖ってる!
あ……ぶないだろうがああああああ!
これはもう、知らんぷりをしていい程度を越えてる!
そう思って振り向いた時『あぶな!』と言って、何かを手で弾く衣織が立っていた。
衣織が弾いて足元に転がったそれは、さっきと同じ鉛筆だ。
「い、お……り……」
どうして?クラスは?
「大丈夫?雨花」
「え、お前……クラスは?」
「大丈夫そうだから出て来た。すぐ雨花と合流しようとしたら、そこにコレが落ちてて……」
衣織が持っていたのは、さっきオレが投げ捨てた紙くずだ。
『衣織くんの彼氏ヅラすんな』と、書いてある。
いつオレが彼氏ヅラしたってええええ!?
さっき、怒りに任せて投げ捨てたから、ゴミ箱に入らないで落ちたんだ、多分。衣織は、ゴミとか普通に拾える奴だから、これも普通に拾ったんだろう。
でも、衣織にだけは、見られたくなかった。
「ごめん、雨花」
「お前は悪くないだろ」
「……」
衣織は後ろを向くと、大きく息を吸って『先輩を傷付けたら、どんな理由だろうがぜってー許さねーかんな!』と、廊下の端にいる生徒まで振り向くくらい大きな声で叫んだ。
「ちょっ……衣織!」
「雨花は僕が守るって言っただろ!怪我ない?大丈夫?」
「大丈夫だから!もー……何、叫んでんだよ!恥ずっ!」
「だって!」
「もういいって。気にすんな」
そうは言っても……気持ちのいいものじゃない。尖った鉛筆なんて、下手したら怪我してたかもしれない。
そんな悪意を、向けられたんだ。
「ホントごめん。僕のせいだ」
「だから、お前が悪いわけじゃ……」
「いや。……僕がかっこ良すぎるせいだ」
「……は?」
「僕がかっこ良くて無駄にモテるせいだ」
そう言って顔を下げた衣織を前に、吹き出してしまった。
こいつは!
「はいはい、そうだな。ホントお前が悪いわ」
衣織め!つい笑っちゃったじゃん。
二人で顔を見合わせて、もう一度吹き出したあと、衣織は真面目な顏でオレを見下ろした。
朝の衣織と、おんなじ顔だ。
「雨花には、安心して笑ってて欲しい」
「え?」
「絶対、守るから」
「……」
「僕が絶対、守るから」
急にそんな真面目な顏、すんなよ。何て返事したらいいのか、わからなくなるじゃん。朝の話も、あのままなのに……。
頭の奥のほうに、塩紅くんに言われた言葉がまた蘇ってきた。
オレが衣織を選んだら、みんなが幸せになる?
みんなって……オレ、も……入って、る?
衣織は『僕のせいって言ったよね?だったら僕に守らせて』と、にっこり笑った。
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