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学祭騒動再び~一日目・動揺~⑦

衣織と一緒に、審査を兼ねた巡回を始めた。 いくつかのクラスを見て終わったところで、かにちゃんとてんてんの書記チームにばったり出くわした。 「お!どこ回った?」 「とりあえず、本館一階は全部見て来た。かにちゃんとてんてんは?」 「俺らは上から回って来た」 「そっか。そろそろうちのクラスに戻ったほうがいい時間かな?」 「あー……サクラは、ばっつん用のスーツを直すからって、もう向かったみたいだけど……ばっつんはまだ呼ばれてない?」 「うん。とりあえず開始30分前には来てって言われたけど……」 「そっか。もうすぐだな。ばっつんも急に大変だのう」 「まぁオレ、準備ほとんど参加してないからさ」 かにちゃんとそんな話をしていると、一年生らしき子が『衣織!』と、慌てた様子で衣織を呼びに来た。 「おー、どした?」 衣織のクラスの子?クラスで何かあったのかな? 「うちの奴ら、隣のクラスと揉め始めちゃって……」 「はぁ?何で?」 「原因はよくわかんないんだよ」 「ったく、何やってんだか」 「頼むよ、衣織」 「わかった!先輩、ごめん!すぐ戻るから!」 そう言って衣織は、呼びに来た子と一緒に行ってしまった。 「さすがラストサムライ」 てんてんはそう言って、ニッコリ笑った。 てんてんってホント、何て言うか……もー、ホント天使。 「衣織、ホンット頼りになるし。みんなにも頼りにされてるんで」 「そっか。そうなんだろうな」 あんな風にお呼びがかかるくらいだ。本当に衣織は、みんなに頼りにされてるんだろう。今回呼ばれた原因の揉め事がどんなものかはわからないけど、揉めてるなんて聞いても、オレが衣織と一緒に行かなかったのは、衣織はうまくおさめるだろうと、思っていたからだ。 いつの間にかオレは、衣織のことを高く評価してる。 「衣織って、バイトたくさんしてるからか大人っていうか……」 「大人?……そう?」 衣織は結構子供っぽい気がするけど。 「ああ……確かに衣織、僕らの前では大人っぽいけど、ばっつん先輩の前じゃ違うかも。前は衣織、ばっつん先輩のこと、可愛いとか綺麗とか言ってたくせに、会計になってからは、仕事は出来るしカッコイイし、尊敬してるって言ってたから、甘えてるのかも」 「へ?!」 「ほう。ばっつんをカッコイイと評するとは、衣織もなかなかお目が高い」 「引継ぎしっかりやって、ばっつん先輩みたいにデキる会計になる!って言って、衣織、バイトいっこ辞めたんです」 「ぅえっ?!」 そんな話、聞いてない! 「あ……ばっつん先輩にバイト辞めたなんて言うと気にするから、絶対言うなって衣織に言われてたんだった!でも……明日で引継ぎ終わっちゃうし、いいですよね?衣織には内緒でお願いします!」 「あ……うん」 あいつ……オレのこと、かっこいいとかデキるとか、尊敬……とか、思ってくれてるんだ?……恥ずっ! でも……。 まぁ……そりゃあ、素直に、嬉しい、よ。 そう思ったら、塩紅くんの言葉が、また頭に蘇った。 「……」 「どした?ばっつん?」 「あ……何でもない」 オレが衣織を選んだら……みんなが幸せ? オレ……も? かにちゃんとてんてんと別れてすぐ、衣織が戻って来た。 揉め事はすぐに解決したらしい。 すぐに審査を再開させようと歩き出したところで、サクラから電話が入った。 サクラは『もう着替えてもらうから、すぐこっち来て』と、用件を言うだけ言って、返事も待たずに、すぐにプツリと電話を切った。 おいおい。まるで、どっかの誰かさんみたいじゃん。 「……」 そんなちょっとしたことで、皇を思い出した自分に苦笑した。 衣織に審査を任せて第二体育館に行くと、すぐにサクラにスーツを渡されて、着替えるように指示された。 スーツを着て髪を軽くセットされたあと、ショーに出るみんなと一緒に最終リハーサルをして、すぐ本番になった。 燕尾服を着て、シルクハットを被ったふっきーが、客席に向かって短く開始の挨拶をした。 最後にシルクハットを脱いで一礼したものの、手が滑って、シルクハットを落としてしまい、そのシルクハットが、周りに置かれていたドミノに当たって倒れ始め、そこからルーブ・ゴールドバーグマシンの連鎖が始まっていくという演出だ。 ハットを落として焦る演技をするふっきーに、みんな吹き出した。 体育館に設置された大きなスクリーンが、連鎖していくからくりを映し出していく。 からくりの最後に待っていたのは、昔ながらの蓄音機だ。 蓄音機の針がレコードにそっと置かれると、古めかしい蓄音機からは想像も出来ないような、今流行りのダンス曲が流れ始めた。 ショーの始まりだ。 「ばっつん!行くよ!」 「うん!」 出番だ。 ドキドキして呼吸が浅くなる。深呼吸を一回して、オレはステージに飛び出した。

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