414 / 584

学祭騒動再び~一日目・動揺~⑧

✳✳✳✳✳✳✳ ショーは成功だったと思う。いや、むしろ大成功でしょ? 朝、あのめちゃくちゃになっていたマシンを見た時には、今日うちのクラスは参加出来ないかもしれないと思ったけど……。 それがこうして無事に参加出来たのは……衣織のおかげ、かな? 衣織といえば!早く衣織と合流して、残りのクラスの審査を出来る限りやっちゃわないと! 急いでスーツから生徒会用式服に着替えて控室から出ると、ドアのすぐ前に衣織がヌッと立っていた。 「ぅお!」 ビックリしたぁ! 「雨花……めっちゃくちゃカッコ良かった!あんなに踊れる人だったの?!」 衣織は興奮気味にそう言って、オレの手を取ってぶんぶん振った。 「え……いや、ちょっと習ってて……って、もうそんなんいいから、早く審査しに行くぞ。お前どっか審査してきた?」 恥ずかしくなって話題を変えた。 かっこいいとか……直球で言われると何か……カユいし。 その時、ふっきーが走ってやってきて『本当にありがとう!藍田くん!』と、衣織に頭を下げた。 「僕が好きでやったんだからいいって。詠は雨花の大事な友達だから、僕にとっても大事な友達じゃん」 何をサラっと言ってんだ!こいつは! 「だからって、雨花ちゃんは渡さないよ?」 「下心はないよ。ただ雨花に笑ってて欲しいから動いただけ……って、あ、それが下心か?あははっ」 「雨花ちゃんへの下心でも何でも、結果僕は助かった。本当にありがとう」 「そっか。うん。でもそのおかげで、雨花のかっこいいダンスが見られたから、貸し借りなしね。何なら借りが出来た感じ?……それより詠、さっきも言ったけど、気を付けなよ?田頭先輩とかサクラ先輩が動くとは思うけど……。何ならすーちゃんに話したほうがいいんじゃない?」 「……うん。考えとく。ありがとう」 「うん。じゃ、行こっか?センパイ」 またセンパイ呼びに戻った衣織が、ニッコリ笑って歩き出した。 オレは先を歩く衣織の背中に向かって、小さく声を掛けた。 「どういうことだよ?」 「ん?」 「ふっきー、気を付けろって……」 皇に何を話したほうがいいの? 「ああ」 衣織は、あのマシンは誰かに故意に壊されたものだろうと話し始めた。 そうでもなければ、あんなにめちゃくちゃになるわけがないって。 誰がどういう理由でそんなことをしたのかはわからないけど、どう考えたって、あのめちゃくちゃな壊され方からして、何かしらの悪意があると思うのが普通でしょ?って……。 あのなんちゃらマシンを指揮してたのはふっきーで、ふっきーは今までも嫌がらせを受けている。もしかしたらあのマシンが壊されたのって、それが原因ってことも考えられるでしょ?って……。 確かに誰かのしわざなら、悪意があるとしか思えない壊れ方だった。あれが、ふっきーへの嫌がらせの可能性がある?そんな……。 「ふっきーへの嫌がらせで、あんなことする?」 「修理してる時、先輩のクラスの人たちが言ってた」 「え?」 「朝、第ニ体育館のほうで楽を見た人がいるって……」 「ラク?」 「すーちゃんの嫁候補の楽だよ。天戸井の息子」 「えっ?!」 天戸井? 「B組の奴が第ニのほうに来る必要ないのにいたのはおかしいって。あいつの仕業じゃないのかって盛り上がってたよ。詠と楽、前から揉めてたんだって?」 「ああ……」 確かに二人は揉めてたっていうか……言い合ってはいたけど。 「詠に負けたのが悔しくて、楽がやったんじゃないかって」 「確かに揉めたりしてたけど……天戸井、あんなことするかな」 テストで負けて悔しいからって、うちのクラスの出し物をあんなにぐちゃぐちゃにする?普通に考えたら、そんな理由だけであんなひどいことが出来るとは思えない。 みんなの前で面と向かってふっきーに文句を言える天戸井が、裏でコソコソうちのクラスの出し物を壊したりするかな? 裏でコソコソするのは、本人に直接文句が言えないからなんじゃないの? その点天戸井は、言い方とかは腹立つけど、ある意味正々堂々と文句を言えるんだから、裏でコソコソする必要ないと思う。 それに、何となく天戸井は、違うと思うんだ。そんな卑怯なこと、しない気がする。気がするって、だけだけど。 「誰がやったかは多分、田頭先輩たちが解明してくれるよ。僕も楽がやったのかと思ってたけど、楽はやってないって雨花がいうなら、僕は雨花を信じる」 「……あっそ」 「あ!キュンとした?」 「するか」 「ひどいよー!」 「うるさい。行くぞ!」 「どうしたらキュンとしてくれるんだよー!もー!」 「……」 衣織とこんな話をしているのは……ホント、楽しい。楽しいし、ラクだ。衣織はオレより先に色々と気を回してくれて、オレをたててくれる。 好かれてるってわかってるからか、何か……一緒にいて居心地がいいし。 隣の衣織をふと見上げると、まだブツブツ言いながら、口を尖らせていた。 ふっと鼻で笑って視線を下げた瞬間、急に頭の中がクラリと揺れた。 「……」 う、わ……この感覚……何か、やばい。 え……何だろう?急に、頭が、クラクラする。 「え?センパイ?どうかした?」 「あ、いや……大丈夫。行くぞ」 衣織にそう返事をした時には、本当に大丈夫になっていた。 ちょっとした立ちくらみみたいなもんだったのかな? そうだ!オレ、夕べほとんど寝てないんじゃん。昼も過ぎてきて、一気に寝不足の疲れが出て来たのかもしれない。 そんな風に呑気に考えていたら、クラスを回っている間に、どんどん具合が悪くなってきた。 ……どうしよう。 でも会計は、学祭が終わってからが本来の仕事の始まりだ。 去年もそうだったけど、今日の売り上げの処理をしないといけない。去年は確か、夜の10時過ぎまでかかったんじゃなかったっけ? オレ……大丈夫か?

ともだちにシェアしよう!