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学祭騒動再び~一日目・動揺~⑨
無事、学祭一日目が終了して、みんなで生徒会室に戻ろうとすると、田頭に肩を掴まれた。
「へ?」
「ばっつんは帰れー」
「は?何で?」
「具合悪いんだろ?」
「なっ……何でっ?!」
衣織に言われるならまだしも、まさか、この田頭に見透かされるとは……。そこにビックリだよ!
「誰かさんの可愛い後輩が、自分が言ったんじゃ絶対帰らないだろうから、会長命令で強制下校させてくれだってさ」
それって……。
「可愛い後輩って……てんてん?」
「そこでボケてやるなよ。いくら何でも不憫だろうが」
「……わかってるよ」
衣織め。
「そこまで気ぃ使ってくれてんだから、もう帰ってやれよ」
「でも……大丈夫かな?会計処理」
去年、二人がかりで夜10時だよ?
「ダメなら明日、まとめてやりゃあいいだろ?だから今日のうちにスッキリ治してくれよ?ばっつん」
「わかった。ごめん、田頭。……衣織のこと、よろしく」
「ああ」
衣織は、本当にオレのことをよくわかってる。
衣織本人に言われたらオレは、絶対に帰らなかっただろう。
少し離れたところで、てんてんと話している衣織に近付いた。
「衣織」
「あ……」
「悪い。帰るわ。何かあったら連絡して。大丈夫だから」
「うん!わかった」
「会計処理は、明日まとめてやったっていいんだからさ」
「うん。じゃあ、それくらいな感じで、出来るとこまでやっておく」
「ああ」
「ねぇ、病院行くなり薬飲むなりして、今日のうちにしっかり治してよ?」
「ああ。……ありがとな」
「……うん」
嬉しそうな衣織に……胸が痛んだ。
「おかえりなさいませ、雨花様」
玄関前に、さんみさんが立っていた。
「あれ?いちいさん、今日お休みでしたっけ?」
「いえ。雨花様がご登校なさってすぐ、駒様がお倒れになったと連絡が入りまして……一位様は本丸のお手伝いに向かわれました。雨花様、舞の稽古は本日お休みだと、御台様からのご伝言です」
もみじ祭りの舞の稽古が、少し前から始まっていた。
でも今日は確かに無理だろう。
「わかりました。あの……駒様のご様子はわかりますか?」
「いえ……九位様も朝から三の丸につめていらっしゃって、お戻りになられませんので、駒様のご容体については未だ何も……。過労だという話は聞きましたが」
「そう、ですか」
駒様がいないと本丸が動かないなんて噂があるって、ふっきーが言ってたけど……。
それくらい重要な立場じゃ、なかなかお休みは取れないのかもしれない。ここのいさんが三の丸にずっと行きっぱなしってことは、駒様は三の丸にいるんだろう。
皇もずっと三の丸にいるのかな?オレも何回も三の丸に入院してるけど、皇、結構ずっと一緒にいてくれたり、したし……。
それが駒様なら、本当にずっと……付きっきり、かも。
オレだって、そうしてもらった。そうしてもらった、けど……同じことをしていても……皇の中では、全然意味が違うような気がして……ため息が出た。
もともと今日は、高遠先生の授業はお休みだった。舞の稽古もお休みになったため、夕飯のあと、寝るまでの間がすっぽり自由時間になった。
夕飯を食べてから、ゆっくりシロの散歩に行けばいいのかもしれないけど、何だか気持ちが落ち着かなくて、夕飯を食べる前にシロを連れて散歩に出た。
「シロ、どこに行く?」
シロは珍しく、三の丸のほうに向かって歩き出した。
「シロ、今日そっちは……」
三の丸には今日、行けないかもしれない。
どうせ門番さんに止められるだろうと思ったのに、門番さんに、三の丸方面に行ってはいけないと止められることはなかった。
ってことは、もう駒様は三の丸にはいないのかもしれない。
どうなっているのか、すごく、気になる。
オレは、シロがこっちに行きたがっているからだと自分に言い訳をして、足早に三の丸に向かった。
「あ……」
三の丸に入ろうというところで、庭に馬が繋がれているのが見えた。あの大きな黒い馬は、皇の馬だ。
皇は、三の丸にいる。
用事がある時以外、三の丸に行ってはいけないって大老様に言われている皇が、今三の丸にいる理由は、駒様しかない、と思う。
真夏のオレの誕生日、シロに連れて来てもらって、三の丸の病院施設をこっそり覗いた日を思い出した。
駒様が入院しているなら、あの時と同じ病室にいるんじゃないかと思う。覗こうと思えば出来るけど……。
「……」
皇が誰かを大事にしているのを見るのは、嬉しいって思ってた。
駒様のことを思って泣かなくなったって話も、ついこの前まで、微笑ましいって思えてた。
でもそれは、オレの中で、皇は駒様を選ばないだろうって、勝手に安心していたからなんだ。
今、病室を覗いたら、全てが終わる気がする。
それ以上近寄ることすら出来ず、踵を返した。
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