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学祭騒動再び~二日目・決別~①

11月3日 晴れ 今日は、神猛学院の学祭二日目です。 明け方、うつらうつらと寝始めてすぐ、目覚まし代わりの携帯電話が、起きる時間だとアラーム音を響かせた。 ボーっとした頭と体を何とか起こして、腫れぼったい目を冷やしてから、バタバタと朝の支度をしたあと、朝食を半分以上残したことをふたみさんに謝ってから、学校に向かった。 梓の丸を出て、本丸の脇を抜けた時、何故か急に皇の香りを思い出して、鼻の奥がツンとした。 朝ご飯の時、本丸の応援から帰って来たいちいさんから、駒様はまだしばらく退院しないようだと教えてもらった。 だったら……皇は今日も、学校には来ないだろう。 「……」 落ち込んでる場合じゃない。昨日の売り上げ処理がしっかり出来ているか、確認してやらないと……。 今日でオレ、生徒会役員じゃなくなるんだから、仕事はきっちり終わらせておきたい。 この先、何日くらい学校に行く日があるだろう?これからの予定をもう一度確認しておくか……と、携帯電話を開くと、新着メッセージがあることを知らせる文字が目に入った。 誰からかなんて、見なくてもわかる。 多分……衣織だ。 メッセージを開くと、思った通り衣織からで『体調どう?』と、書かれていた。 「……」 連絡先を知らなくても、オレに何かあったらすぐにわかると、以前、皇は言っていた。 それが本当だとしたら、昨日、オレが体調を崩して早く帰宅したことも、皇は知ってたってこと? だけど……皇からは何の連絡もなかった。 昨日、体調を崩したオレを心配してくれたのは……衣織だ。 皇、衣織ファンがオレを狙ってるって話をしてきた時『余が守る』って、言ってくれたのに……。 昨日、衣織ファンの嫌がらせから、オレを守ってくれたのも、衣織だ。 衣織は、何も言わなくてもわかってくれることが多い。考え方が似てるからだろうけど……。だから一緒にいてラクだし、何より……オレが必要だって、言ってくれる。オレを、好きだって……言ってくれる。 好き、だって……。 「……」 学祭二日目は、神猛学院の生徒が、家族を招待してもいい日になっている。だけど、去年同様、開始時間のだいぶ前から、女の子たちが列を作って開門を待っていた。 うちの生徒、全員女系家族なんでしょうか?という勢いだ。みんな、どこからチケットを入手してくるんだろう?うちの生徒たちも、女の子がたくさん来るのは喜ばしいことなんだろうけどさ。 そんな浮足立った雰囲気の中、とりあえず生徒会室に向かった。 昨日の売り上げ処理も気になるけど……学祭二日目の今日は、忌まわしき恒例の女装コンテストも気になっていた。 今年は一体、どんな服を着ることになるんだろう? 今年も着替えの頃に、ななみさんととおみさんが学校に来て、女装を手伝ってくれることになっていた。 「おはよー。昨日、ごめんな」 生徒会室のドアを開けると、田頭とサクラが何やら難しい顔をしていた。 「あ!おはよう、ばっつん」 「何かあった?」 「んー……昨日の、うちのクラスのさ。あれ、B組の天戸井がやったんじゃないかって噂が、どわーっと広がってんだよ」 「あ……」 そうだ。衣織がそう言ってたっけ。 「天戸井がふっきーに色々絡んでたのは、周知の事実だしな」 確かに天戸井はふっきーに絡んでたし、良く思っていないのもあからさまだったけど……。 その時、ふっきーが花壇に押し倒されたことを思い出した。あの犯人は、絶対に天戸井じゃなかった。ふっきーは天戸井じゃない人から、嫌がらせをされていたんじゃないの? その話を田頭とサクラにすると『うーん?じゃあ誰なんだかな』と、考え込んでしまった。 「ま、この学祭の実行委員長として、3年A組の人間として、犯人が誰であろうが、やったことの償いはしてもらうけどな」 田頭が珍しくものすごく怒っている。 「天戸井で決まりかと思ってたけど……きっかり調べる必要がありそうだね?きみやす」 サクラが顎に手を置いて、考えるポーズを取ると、田頭は『もう一度先入観なしで調べ直すか』と、サクラと目を合わせた。 昨日のあの事件、まだ終わってないんだ。 オレは何だか色々と自分のことでいっぱいいっぱいで、ショックを受けているだろうふっきーに、何の言葉もかけていなかった。 ふっきーは、いつもオレを助けてくれるのに……。 「ふっきー、もう来てるかな?」 「さっき会ったよ」 「そっか。……ちょっと、見て来ていい?」 「ああ。パンフレットが足りないって、今急遽印刷してる書記チームが戻ったら、今日の打ち合わせ始めるから、早めに戻って来てよ」 「わかった」 急いで第二体育館に向かうと、ふっきーと何人かが、すでに今日のショーの準備のために、ちょこまかと忙しそうに動き回っていた。

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