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学祭騒動再び~ニ日目・決別~③

女装コンテストの打ち合わせが終わったあと、昨日よりもだいぶ混んでいる校内を、衣織と一緒に急ぎ足で回り始めた。 昨日回れなかったクラスと、部活部門の審査を、今日一日で終わらせないといけない。 昼前頃、ようやく全クラスの審査を終えて、部活部門の審査に向かおうというところで、急に頭がクラリと揺れた。 朝は全然平気だったのに……。 昨日、衣織に売り上げ処理を全てやらせて、迷惑をかけている。今日、倒れるわけにはいかない。最悪、謝恩会は欠席しても大丈夫だろうけど、今日の会計処理が終わるまでは、絶対に倒れたくない。 大丈夫だ。しばらくすれば、おさまる。大丈夫。昨日もすぐにおさまったし、大丈夫。 頭の中で何度もそう繰り返しながら、全身が熱くなっていく感覚を逃がすように、上着を一枚脱いだ。 半歩後ろからついてきている衣織に『暑い?』と、聞かれて『人も多いしちょっとね』と、誤魔化すように鼻で笑った。 その瞬間、急に激しい吐き気に襲われた。 ど……しよ……。ダメって思ったら、本当にダメになる。 ……怖い。 ……怖い。気持ち、悪い。このまま、こんなところで吐いたら……衣織にもみんなにも迷惑をかける。 そんなの、絶対嫌だ。 「雨花?」 衣織にふいに肩を引かれた瞬間、また強い吐き気に襲われて壁に手をついた。 「雨花?!」 「……ごめ……大丈夫」 このまま、少し深呼吸してたら、きっとおさまる。 どんどん熱を持っていくような体を冷やそうと、ひんやりとする壁に体を預けた。 「だ……いじょうぶって顏じゃないじゃん!」 衣織は、オレを無理矢理背負って走り出した。 「どこか痛いの?」 「ちが……ホント、大丈夫……。早く、審査……」 「審査なんかどうでもいい!辛いなら辛いって言ってって言ったじゃん!」 「……」 衣織に怒鳴られて、オレはそれ以上何も言えなくなってしまった。 おんぶされたまま着いた保健室に、養護の鈴木先生はいなかった。 衣織はそっとオレをベッドに寝かせると『先生探してくる!ちょっとだけ一人で待ってて。何かあったらすぐ電話して!携帯持ってるよね?』と、一気にまくしたてた。 「持ってる……けど……」 見上げた衣織は、汗だくだった。 オレをここまでおんぶしてきたんだもんな。 結局、オレは衣織に迷惑をかけてしまった。 「ごめん。ホント、オレ……ちょっと休めば……大丈夫だから」 そう言うと、顔をしかめてオレを見下ろした衣織は、キュッと口を結んで『何も気にしなくていいから大人しく寝て待ってて』と言って、保健室を出て行った。 「……」 保健室のベッドで横になるのは、あの新年会以来だ。 そう思った途端、猛烈に湧き上がって来た吐き気をどうにも出来ず、保健室のトイレに駆け込んで、思いきり吐いてしまった。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 ……怖い。 怖い。このまま倒れたらどうしよう。変な病気だったらどうしよう。頭がクラクラする。……怖い。 その時、廊下を走ってこちらに近付いて来る足音が聞こえた。 衣織が先生を連れて戻って来た?ダメだ!こんなところを見せたら、衣織を不安にさせる。ダメだ! 吐いた物を流して、急いでベッドに戻ると、すぐにガラリと乱暴にドアを開けられた。 ドアが開けられた瞬間、ふわりと流れてきた空気に乗って、かすかに独特な香りが鼻を抜けた。 この香り……。 「雨花!」 う……そ……。 どうして? ベッド脇のカーテンが、向こう側から一気に開かれると、着物姿の皇が、肩で息をしながら、必死な顔で立っていた。 「ど、して……」 どうして……ここに? 「そなたが倒れたと報告があった。どう致した?」 だって……今日もお前、駒様についてて、学校には来ないはずだろ?どうして……本当に、皇? 皇に向かって伸ばした手は、これが現実だって確信するには痛すぎるほど、強く握り込まれた。 「痛っ……」 夢、じゃ、ない。 「雨花」 優しくオレの手をひいた皇の腕に、体ごと包まれた瞬間、力が抜けて、涙が零れた。 さっきまで、倒れたらどうしようって、すごく怖かったのに……皇の胸に包まれたら……もう大丈夫だって、安心して……。 「どこか痛むのか?」 皇がオレの顔を覗き込んで頬を撫でる。 あとからあとから、涙が零れるのを、止められない。 大きく首を横に振ると、皇はもう一度強くオレを抱きしめた。 「どう致した?」 皇……。 「怖かっ……」 「すまぬ。遅くなった。もう案ずるな」 「気持ち、悪く、て……怖かっ、た……」 「ああ、もう大丈夫だ」 強く強くオレを抱きしめる皇の胸にしがみついて、涙と鼻水を拭いた。 さっきまで不安でいっぱいで、苦しかった心臓は、皇を見た途端、違う痛みで満たされた。 「皇……」 好き……って。 皇が好きって……体が言ってる。

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