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学祭騒動再び~ニ日目・決別~⑨

✳✳✳✳✳✳✳ 会計処理は無事終わり、七時半には役員の引継ぎ式も終わらせた。 オレたちは、一年間の生徒会役員の任務を無事終わらせたんだ。 ……みんな女装姿のまんまだけど。 「お疲れ」 「お疲れー!」 「ありがとな」 今までお世話になってきた部長連中やら委員長たちと挨拶を交わしたあと、後夜祭の片付けを新役員たちに任せて、オレたち旧役員は、サクラに追い立てられるように謝恩会会場へ向かうことになった。 って言っても……オレはどこで何をするのか、全く知らされていないけど。 でも、謝恩会がどんなものかより、今、皇が何の用事でどこに行っているのかのほうが気になる。 だって……皇、楽しそうだったから。 本丸に助っ人に行っていたいちいさんなら、皇の用事について知ってるかもしれない。帰ったらそれとなーく、いちいさんに聞いてみよう。 皇は、しっかり礼をして来いって言ってくれたけど……謝恩会って、先生たちと一緒にご飯を食べながら、お世話になったお礼をする会、だよね?それなら、体調が悪いって言って、なるべく早めに切り上げさせてもらっても……いいよね?ちゃんとお礼はしてから帰るから。 うん。そうしよう! サクラのあとについて、生徒会専用パーティールームに入ると、すでに準備が整っていたらしく、美味しそうな香りに包まれた。 先生たち、何人くらい来るんだろう? このパーティールームは少人数用だ。先生たち全員が来るとは思っていなかったけど、思ったよりもこじんまりとした会場を見てホッとした。 先生の人数が少ないほうが、早めに帰れる可能性が高い。 っていうかそれよりも……女装コンテストが終わったあとすぐ、後夜祭の準備に入ったから、みんな女装姿のままなんだけど、このままでいいわけ? メイド姿のサクラは全然違和感ないけど、女医姿の田頭と女海賊風のかにちゃんは……イタイ。 「サクラ」 「ん?」 「みんな着替えないの?謝恩会なのにこのままじゃ失礼じゃないの?」 今までお世話になったことのお礼をする会なのに、こんなふざけた女装のままでいいわけ? 「え?いいよ。ゲストもこのままでいいって言ってたし」 「えっ?!先生たちが?」 そっか。うちの先生たちも全員男だし、男だらけの謝恩会より、偽物でも”女子”がいたほうがいいってことなのかな? 「先生たち?」 目を丸くしたサクラが『ああ』と言って、吹き出した。 「本当に何も知らないんだ?ばっつん」 「え?」 「絶対どっからかバレてると思ってた」 「は?」 バレてる?って、何が? サクラは時計を見ると『そろそろゲストが来る時間だから、もうネタバレしてもいいかな?』と、ニヤリと笑った。 「え?」 ネタバレ?何を? 「生徒会ってさ、基本的に活動するためのお金は、生徒から徴収した生徒会費なわけじゃん?」 「へ?」 何?急に? 「でも、ばっつんもご存知の通り、それだけじゃうちの生徒会は動かせないでしょう?なんてったってイベント全てが派手だからね。それじゃあ、それを可能にするための資金源は何でしょうか?」 サクラは指を立ててウインクした。 「え?……寄付金?」 ……だよね?生徒会費以外の収入は、寄付金だけだ。 「そう!それ!でもさ、生徒会は他の部活みたいに、何かの大会に出て活躍したりするわけじゃないし、応援してもらいづらいでしょう?だから本来なら、生徒会に対して寄付してくれる人なんて、生徒会役員の家族くらいのもんだと思うんだよね」 「……はぁ」 「でも、ここらへんはばっつんのほうが詳しいと思うけど、うちの生徒会には、色んなところから結構な寄付金が入るじゃん?」 「うん」 確かに、高校の生徒会がこんな金額を動かすのかよって、びっくりするくらいの金額を、オレは動かしていた。 そのほとんどが、生徒会に対しての寄付金だ。 「何でだと思う?」 「え?……何で?」 寄付するのに理由があるの?理由なんて考えたこともなかった。 「この謝恩会に呼ばれるためだよ」 「……は?」 「この生徒会役員主催の謝恩会は、一年の間に一番多く生徒会に寄付してくれた人を呼んでもてなす会なんだ。この謝恩会に呼ばれるってことは、生徒会に一番寄付したことの証明になる。それはイコール、この学校に一番寄付したってことと同じなんだよ。ある階級の人たちにとって、神猛に一番多く寄付したなんて証明されるのは、一種のステイタスらしいからね」 「……」 生徒会に、一番多く寄付した人……。 「ま、今年のゲストさんは、そんなステイタスなんか今更必要ないだろうから?そんな理由で寄付してくれたわけじゃないだろうけどねー」 この一年、オレたち生徒会に一番多く寄付してくれたのが誰かなんて……会計のオレが一番、よく知ってる。 「あ、ゲストさんが来たんじゃない?」 エレベーターが到着を知らせる音が、オレの耳にも届いた。 一瞬静まった空間に、廊下をスッ……スッ……と、こちらに近付いてくる音が聞こえる。 サクラが急いで『いらっしゃいませ!』と、頭を下げながらドアを開けた。

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