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学祭騒動再び~ニ日目・決別~⑪
クラスのショーでのオレの出番は、五分くらいなものだったと思う。それをフルで見せられたあと、衣織の大声大会の映像も流された。
皇は『ほう』と驚いた顔をしたあと、オレをチラリと見て口端を上げた。
サクラは『衣織には”頑張ったで賞”を贈ってやろう!』と、うんうん頷いた。
衣織は振られたとか言ってるけど……実際はオレが振ったわけじゃない。
でも、そこらへんを詳しく話すと、皇にイルミネーションを見せたかった……とか、色々恥ずかしい話をしないといけなくなる。だからそれは黙っていることにした。
大声大会の映像が終わると、サクラが『生徒会のホームページの隠し部屋に、この映像を含めたばっつんの秘蔵映像が入ってるから、好きなのとっていいよ?パスワードはコレね』と、皇にメモを差し出した。
「なっ!何?!秘蔵映像って何っ?!そんなの皇には必要ないし!」
サクラが持っているメモを取り上げると、サクラは『ちょっと!』と、さらにメモを取り上げようとしてきた。
「何?!返してよ、ばっつん!ゲストへのプレゼントの一つなんだから!」
「はあっ?!そんなん要るわけないじゃん!」
メモをサクラに渡すまいと上にあげると、オレの隣に座っていた皇が、オレの手からひょいっとメモを取った。
「ちょっ!」
「もらっておく」
「なっ!」
「藤咲、恩に着る」
「うん!着て!着て!」
「着るな!」
な……何、言ってんだよ!皇のバカ!
オレの秘蔵映像とか……いるの?
「ばっつん、真っ赤だよー。もう!デレオンリー!」
「デレてないっ!」
自分でも、顔が赤いのはわかってる。
だって……皇が……オレの秘蔵映像……もらっておく、とか……言うから。
恥ずっ!
「さて。んじゃ、そろそろお待ちかねの、ゲスト様の望みを叶えるコーナーいっちゃう?」
サクラがそう言うと、田頭とかにちゃんが大袈裟に拍手をしながら『よっ!待ってました!』と、騒ぎ立てた。
何?なにーっ?!ゲストの望みを叶えるコーナーって何ーっ?!
「がいくん、打ち合わせの時に話しておいたけど、今までお世話になったお礼に、望みを何でも一つ叶えるよ。ボクらに出来る範囲で……になっちゃうけど。決まってる?さぁ、何でも言って」
皇の望み?
そんなのあるなら……オレも叶えたい!
「ああ……それなら、これで失礼してもいいか?」
「ええっ?!」
え?失礼してもいいかって……帰るってこと?
驚いてつい大声を上げてしまった。
口を押さえたオレを見て、鼻で笑った皇がソファから立ち上がった。
嘘……本当に、帰っちゃうの?
パーティールームのドアに向かって歩き出した皇を見送るために、みんなで皇の背中を追った。
「あの……がいくん?これで失礼するっていうのが、望みってことでいいの?ボクたちで出来ることなら、何でもするよ?」
サクラがそう声を掛けると、皇は『望みはこれに叶えてもらう。連れて行くがいいか?』と、オレの手首をぐっと引いた。
「どあっ!」
ちょっ……どういうことー?!
引っ張られて体勢を崩したオレを、皇はガッシリ抱き止めた。
「ああ、そっか!うんうん、わかった!ばっつん!ゲストの望み、しっかり叶えて来てよ!」
「ぅえっ?!嘘っ!ちょっ!えーっ!」
バタバタ暴れても、皇の腕からは逃れられそうにない。荷物のように抱えられたまま、パーティールームを出された。
エレベーター前まで来ると、皇はオレをそっと下ろして、見送りに来た三人のほうに振り返った。
「生徒会活動は、随分楽しかったようだ。一年間……青葉が世話になった」
皇が、三人に向かって頭を下げた。
なっ!何でお前がそんな……おかしいじゃん!
でも……何だよ、それ。
ちょっと……泣きそうになるじゃん。
「楽しく活動出来たのは、がいくんのおかげだよ。本当にありがとう。ばっつん、ホント……楽しかったよな。こちらこそ、一緒にやってくれてありがとな」
田頭がそう言ったあと、サクラとかにちゃんも頷いて、三人が揃って頭を下げた。
ちょっと……やめてよ!三人が女装姿だろうが、そんなこと言われたら、泣きたくなるじゃん!
「あ!そうだ!忘れてた!ちょっと待ってて!」
サクラは何かひらめいたように頭を上げると、急いで生徒会室から何かを持って来た。
「ばっつんの着替え」
サクラが差し出した紙袋を『すまない』と言って、皇が受け取った。
「ごゆっくりー!」
エレベーターの扉が閉まると、皇は『さて、そなたに何を叶えてもらおうか』と、オレを壁に追いやった。
「うっ!」
「まずはそなた……」
「……何?」
何がお望みだよ?
恐々皇を見上げると『一年よう頑張った』と、笑いながらオレの頭をポンポンするから……不覚にも本気で涙が込み上げてきて、皇の胸に飛び込んでしまった。
そんなこと、今言うなよ。皇のバカ。
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